研究課題
本研究は、炎症依存的ながん発生メカニズムを解明する一端として、Noxo1を含むNox1複合体によって産生されるROSが胃がん発生において果たす具体的な役割を明らかにすることを目的として行っている。具体的には、Noxo1遺伝子コンディショナル欠損マウスを作製し、胃がん発生モデルマウスであるGanマウスとの交配実験によって、Noxo1の遺伝学的機能の解明を目指すと同時に、胃がん細胞株を用いた、Noxo1ノックダウン実験及び強制発現実験を行うことによって、Noxo1の分子細胞学的な機能を明らかにすることを目的とする。①遺伝子改変マウスの作製状況:Noxo1の遺伝学的機能の解明を目的として、Noxo1(flox/flox)マウスの作製を行っている。Noxo1(flox/flox)Villin-CreERT2マウスにおいて、タモキシフェン投与依存的にNoxo1の遺伝子を欠損できることを確認した。現在B6系統への戻し交配はN7まで進んでいる。②Noxo1遺伝子発現調節機構の解明:3種類の胃がん細胞株(SNU601、SNU719およびKATOⅢ)を用いて、培地へのTNF-α添加実験、Noxo1のプロモーターアッセイ、p65のノックダウン実験を行い、Noxo1がTNF-α依存的に活性化されたp65によって直接転写制御を受けることを明らかにした。また、Noxo1ノックダウン実験を行い、TNF-α刺激後のROS産生にNoxo1が必要であることを明らかにした。以上の結果から、TNF-αによるNoxo1を介したROS産生機構について、in vitroレベルでの制御機構を明らかにした。③Nox1複合体の阻害剤の経口投与によって、Ganマウスの腫瘍形成が抑制されることを明らかにした。この結果は炎症環境依存的な発がんにおけるNox1複合体のin vivoレベルでの重要性を示している。
2: おおむね順調に進展している
Noxo1コンディショナル欠損マウスの作製について、申請時にはNoxo1(flox/flox)マウスとRosa-CreERT2マウスとの交配実験を予定していたが、Noxo1(flox/flox)Rosa-CreERT2マウスの胃粘膜上皮組織において、Tmx投与後に目的のノックアウト効率が得られなかったため、Cln18-CreERT2マウスを新たに作製してNoxo1(flox/flox)マウスとの掛け合わせを進めている。また、胃がん細胞株を用いたin vitroでの実験は、ほぼ予定通り進行している。さらに、Nox1複合体に対する阻害剤の投与実験において、抗腫瘍効果が得られたことから、炎症環境依存的な発がんにおけるNox1複合体の重要性をin vivoレベルで示すことができた。
今年度は、Noxo1(flox/flox)Cln18-CreERT2 Ganマウスの作製を行い、マウス胃がん腫瘍組織の病理学的解析を行うことによって、胃がん発生におけるNoxo1の遺伝学的機能を明らかにする。また、これらGanマウスの腫瘍上皮細胞をオルガノイド培養し、形態の評価および分化・未分化マーカーでの染色を行うことによって、Noxo1の幹細胞性への寄与を評価する。以上の結果から、in vivoにおいて確認されたフェノタイプに基づいて、胃がん細胞株を用いたNoxo1ノックダウン実験および強制発現実験を行い、Noxo1が関与する細胞生理学的機能を明らかにする。さらに、Noxo1ノックアウトマウスの腫瘍組織を用いて遺伝子発現解析を行い、これらの表現型に関与するシグナル経路を明らかにする。特に、間質細胞と腫瘍上皮細胞との相互作用による現象を解析するため、RAW264.7やTHP-1などのモノサイトと胃がん細胞との共培養実験を行う。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
Cnacer Science
巻: 107 ページ: 391-397
10.1111/cas.12901
Cancer prevention research
巻: 9 ページ: 253-263
10.1158/1940-6207.CAPR-15-0315