H.pyroli感染に起因する慢性炎症は胃がん発生の主な原因の一つである。本研究は、炎症依存的ながん発生メカニズムを解明する一端として、Noxo1を含むNox1複合体によって産生されるROSが胃がん発生において果たす具体的な役割を明らかにすることを目的として行った。H28年度は、以下に示すようにNoxo1遺伝子コンディショナル欠損マウスの作製を行い、Noxo1の遺伝学的機能の検証を行うとともに、胃がん発生モデルマウスや胃炎モデルマウスを用いてNox1複合体阻害剤の投与実験を行い、Nox1複合体のin vivo での機能を明らかにした。 ①Noxo1の遺伝学的機能の解明を目的として、Noxo1flox/floxマウスを作製した。また、胃粘膜上皮細胞特異的にNoxo1遺伝子を欠損させるためNoxo1flox/flox;Cldn18-CreERT2マウスの作製し、恒常的にNoxo1遺伝子を欠損するモデルとしてNoxo1flox/+;CAG-Creマウスを作製した。 ②前年度、Nox複合体阻害剤の経口投与により、マウスの胃腫瘍形成が抑制されることを明らかにした。H28年度はこの阻害剤を、胃炎マウスモデル(C2mE)へ投与する実験を行い、胃炎組織における過形成や化生が抑制されることを明らかにした。 また、本研究期間全体を通して胃がん細胞株を用いた実験を行い、TNF-αの下流でNox1複合体が活性化するメカニズムを明らかにした。胃炎組織に浸潤した炎症細胞から分泌されるTNF-αによってNox1複合体が活性化するメカニズムを明らかにし、これらが過形成や化生の形成に関わる可能性を明らかにした。以上の結果は、胃炎組織で異常腺管が発生するメカニズムを解明する端緒となる新知見となった。また、本研究成果によりNox1複合体を阻害することによって、胃がん発生を予防できる可能性を示すことが出来た。
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