研究実績の概要 |
Hippo pathwayは、細胞増殖に関わる遺伝子の転写を抑制するシグナル経路で、がんにおいてこの経路が破綻している場合が数多く報告されている。Hippo pathwayで中心的な役割を担う因子が、LATS1, LATS2キナーゼである。一方でLATS1/2はHippo pathway非依存的に、様々な基質をリン酸化することによって細胞周期、DNA損傷応答などを制御している点で、がんにおいて重要な因子であると考えられる。 申請者は昨年度までに、LATS1/2の新規基質としてZEB1(CDH1の転写抑制因子)を発見し、高悪性度の間様系様乳がん細胞(MDA-MB-231細胞(MM-231))において、LATS1によるZEB1のリン酸化がCDH1の発現抑制を亢進させることを明らかにしており、LATS1が間様系細胞の性質(CDH1の発現量が低い)を維持するために必要であることを予測していた。 今年度は、リン酸化ZEB1がCDH1の転写抑制に寄与するメカニズムを明らかにするため、リン酸化ZEB1のタンパク安定性について検討した。MM-231にZEB1リン酸化模倣型変異体とZEB1非リン酸化型変異体を導入し、タンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミドを添加した結果、ZEB1リン酸化模倣型変異体は非リン酸化型変異体よりもタンパク安定性が高いことが明らかとなった。さらに、MM-231を用いてLATS1をノックダウンすると、内在性のZEB1タンパクが不安定となった。以上より、LATS1/2によるZEB1のリン酸化は、タンパク安定性を亢進させ、CDH1の転写抑制を行うことが明らかとなった。さらに、悪性度の高い乳がん患者では悪性度の低い患者よりも、ZEB1のリン酸化が亢進していることも明らかとなり、高悪性度の乳がんにおいてはZEB1のリン酸化が悪性度の維持に重要であることが示唆された。
|