研究課題
本研究は血管内皮細胞が、血管内皮幹細胞システムを構成しているとの概念に立脚している。腫瘍血管ではこの内皮幹細胞システムの分化異常が生じているとの仮説のもと腫瘍血管内皮細胞の分化誘導法の探索を行い腫瘍血管の「正常化」を目指す。本年度は(1)正常血管内皮幹細胞と腫瘍血管内皮幹細胞の分子レベルでの相違の解明、(2)正常血管内皮幹細胞の分化誘導メカニズムの解明を目指して研究を行った。(1)腫瘍血管中の血管内皮細胞さらには血管内皮幹細胞に関する詳細な検討を行った。様々な組織の幹細胞同定方法として利用されている、ヘキスト色素を用いたSide Population(SP)解析を行った。マウス肺がん細胞株をマウス肺に同所移植を行い肺がんをモデルとして、腫瘍血管内皮SP細胞の特徴を明らかにした。その結果、正常肺に比べ肺腫瘍では血管内皮SP細胞の比率が約7%に上昇していることがわかった。また肺内皮SP細胞移植実験、培養実験から肺内皮SP細胞が肺腫瘍での血管内皮細胞の供給源になっている可能性が明らかとなった。腫瘍血管内皮SP細胞の遺伝子解析を行ったが現在のところ、腫瘍血管全体で発現していて正常血管内皮では発現を認めない新規因子をいくつか同定する事が出来たが、腫瘍血管内皮SP細胞を特異的に同定する事が可能なマーカーは判明していない。腫瘍血管内皮SP細胞に特異的ではないが高発現している因子として薬剤排出トランスポーターがあることが明らかになった。腫瘍内皮SP細胞では薬剤排出トランスポーターが高発現していることにより、ある種の血管新生阻害剤を細胞外に排出し薬剤耐性の原因になっていることも明らかにし論文報告を行った。(2)正常内皮幹細胞の網羅的遺伝子解析は順調に進んでいる。遺伝子発現情報も順調に解析を行っているが、血管内皮細胞の分化システム解明には至っていない。
2: おおむね順調に進展している
正常血管内皮細胞の遺伝子発現解析と腫瘍血管内皮SP細胞の機能解析に関しては順調に進んでいる。(1)腫瘍モデルの作製、腫瘍血管内皮細胞の解析、腫瘍から内皮細胞の分取さらには幹細胞同定方法であるヘキスト色素によるSP解析まで順調に行った。腫瘍内皮SP細胞と大多数の内皮細胞であるMain Population(MP)細胞との比較を行い血管内皮SP細胞が腫瘍血管形成において血管内皮細胞を供給する源になることを示した。また、腫瘍血管内皮SP細胞の遺伝子発現の特徴を明らかにして薬剤耐性との関与も示した。腫瘍血管内皮SP細胞の遺伝子網羅的解析に関してはまだ結果が出ていない。今年度も引き続き実験と解析を行っていく予定である。(2)正常血管内皮細胞の遺伝子発現解析は血管内皮SP細胞、さらには今までに明らかにしてきた表面マーカーを用いた幹細胞同定法による内皮細胞分画の両方の細胞でマイクロアレイ解析を行った。両細胞分画で同定した幹細胞様細胞は非常に多くの遺伝子発現が類似していることが明らかになった。腫瘍血管内皮SP細胞の網羅的解析、腫瘍血管内皮SP細胞の特異的表面マーカーの同定は達成できていない。また正常血管内皮細胞の分化を司るメカニズムの解明もまだである。マイクロアレイから得られた遺伝子の発現解析、さらにはその発現遺伝子の血管内皮細胞株でのノックダウンを行っているが内皮細胞の性質を変え未分化性を示す内皮細胞に脱分化させることはできていない。遺伝子発現の解析から得られた結果だけでは内皮細胞分化のメカニズムを明らかにするのは困難である可能性も検討している。エピジェネティックな解析も考慮する必要がある。全体的には到達できていない点も多々あるが、論文発表という方法で成果の報告ができた事を考慮に入れると順調に進展していると考えられる。
腫瘍血管内皮SP細胞の網羅的遺伝子発現解析を引き続き行う予定である。肺腫瘍モデルをもとに解析を行ってきたが、網羅的解析は皮下腫瘍モデルを用いて行っている。マウスモデルを準備の上、皮下腫瘍の血管内皮SP細胞の分取、マイクロアレイ解析を引き続き行う。少なくとも合計で3回のデータが得られるまで行う予定である。正常血管内皮SP細胞、表面マーカーを用いた内皮幹細胞分画の遺伝子発現パターンは腫瘍内皮細胞と比較できる状態になっている。今後当初の予定通り以下(1)から(3)を行う予定である。(1)腫瘍血管内皮SP細胞の網羅的解析の継続(2)腫瘍内皮SP細胞、MP細胞の遺伝子発現パターンの比較(3)腫瘍血管内皮SP細胞のMP細胞への分化方法の探索また得られた遺伝子発現情報から培養細胞を用いてのsiRNAでの遺伝子ノックダウン解析を積極的に行う予定である。さらに現在までの成果から、血管新生阻害剤を用いて腫瘍の治療を行うと血管内皮SP細胞分画が残存することがわかった。血管新生阻害剤治療後の腫瘍血管内皮と治療していない腫瘍血管内皮細胞を比較することにより、腫瘍血管内皮幹細胞様の細胞特徴を明らかにすることができる可能性が考えられる。また、血管新生阻害剤耐性のメカニズムも明らかにできる可能性もあり、血管新生阻害剤耐性血管の遺伝子発現解析も同時に行う予定である。大規模データの解析を効率よく行う必要があり、専門家の協力を仰ぎながら解析を進めていく予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Cancer Research
巻: - ページ: -
Developmental Cell
巻: 33 ページ: 247-59
10.1016/j.devcel.2015.02.024