本研究では、成人T細胞白血病(ATL)の発症・進展における転写因子ISL-1(insulin enhancer binding protein-1)の関与について解析を行った。HTLV-1感染T細胞株8株中、蛋白質レベルでは3株、mRNAレベルでは6株でISL-1の恒常的発現が認められた。特にウイルス遺伝子Tax発現細胞株でISL-1の強い発現を認めたが、非感染T細胞株3株では発現はみられなかった。健常人末梢血単核球にHTLV-1を感染させると、7日後にTaxやIL-2受容体α鎖の発現とともにISL-1 mRNAの発現を認めた。非感染T細胞株JurkatにTaxを過剰発現させると、IL-2受容体α鎖の発現より24時間遅れてISL-1の発現が確認できた。さらに、Jurkat細胞にISL-1を過剰発現させたところ有意な増殖能の増加を認め、ISL-1の標的遺伝子c-mycの発現が軽度増加していた。そこで、核抽出液を用いてゲルシフトアッセイでc-myc遺伝子プロモーター領域へのISL-1の結合能を検討したところ、感染T細胞株と非感染T細胞株との間で差異は認めなかった。また、ISL-1の遺伝子発現制御機構の解析のため、ISL-1遺伝子プロモーター領域へのSTAT及びAP-1ファミリー蛋白質の結合能を検討した。幾つかの感染T細胞株の中にバンドが検出されており、現在結合している蛋白質の同定を行うとともに、ISL-1遺伝子プロモーターのレポーターアッセイを予定している。 以上より、(1)HTLV-1感染T細胞株においてISL-1が高頻度に発現していること、(2)HTLV-1感染やTaxによりT細胞にISL-1の発現が誘導されること、(3)T細胞株にISL-1を発現させることで細胞増殖能が増加すること、が判明した。このように、ATL発症・進展へのISL-1の過剰発現の関与が示唆された。
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