研究実績の概要 |
非アルコール性脂肪肝炎(NASH: nonalcoholic steatohepatitis)は、メタボリックシンドロームの肝臓における表現型とされ、肝細胞癌の発生母地となりうることが明らかとなっている。今回、メタボリックシンドロームモデルマウスであるTSODマウスおよび対照であるTSNOマウスを用いてNASHにおける肝腫瘍発生メカニズムについて検討を行った。TSODマウスでは、12ヶ月齢および14ヶ月齢ともに、肝臓の線維化は目立たなかったが、肝細胞への脂肪滴沈着、肝細胞壊死や小葉間への炎症細胞浸潤などのヒトNASHに類似した組織所見が認められた。TSODマウスではヒトNASH様の組織変化を背景として多数の細胞巣(TSOD:12ヶ月齢、14ヶ月齢;72%、81%、TSNO:12ヶ月齢、14ヶ月齢;0%、0%)及び肝腫瘍(TSOD:12ヶ月齢、14ヶ月齢:67%、81%、TSNO:12ヶ月齢、14ヶ月齢;20%、0%)の発生が認められた。細胞増殖およびアポトーシスは、TSODマウスの細胞巣と肝腫瘍ではTSNOマウスの非腫瘍部と比較して有意に増加していた。8-OHdG陽性率は、TSODマウスの細胞巣ではTSODマウスの非腫瘍部に比較して有意に上昇していた。QSTAR-Elite LC-MS/MS及びIngenuity pathway解析を用いて12ヶ月齢の非腫瘍部の肝組織のプロテオーム解析を行ったところglutathione S-transferase, pi 1やacyl-CoA oxidase 1の発現上昇が認められ、上流調節因子の解析ではインスリン伝達経路、レプチン受容体経路、catenin beta 1やtranscription factor 7-like 2の活性化が認められた。これらがNASHの発生に関与している可能性が示唆された。
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