本研究の目的は、がん細胞が分泌する直径100 nmほどの細胞外小胞であるエクソソームの体内挙動を検出し、転移促進機構をエクソソームの生体内の局在の面から明らかにすることである。がん細胞由来のエクソソームの機能を調べるためには、エクソソームを取り込んだ細胞や臓器を検出する上で必須である。前年度に引き続き、がん細胞由来のエクソソームの受け渡しを検出する系のin vitro、in vivoでの作成を試みた。 検出系としてCre-LoxPシステムを応用し、Cre recombinase発現プラスミドとLoxPを含みCre recombinaseに応答して蛍光タンパク質を発現するレポーターを持つプラスミドを構築した。それらをヒト、マウス乳がん細胞株や、HEK293細胞株に導入し、エクソソームの受け渡しを観察した。 前年度ではエクソソーム内へのCre recombinaseの導入効率が低かったので、今年度は、エクソソーム内へのCre recombinaseの導入効率を上昇させる系を作成した。ラパマイシンを介した二量体を形成するタンパク質複合体を利用して、ラパマイシン添加時にエクソソームへCre recombinaseが高効率に導入される系を作成した。そのエクソソームを、LoxPレポーターを含む細胞株に添加、及び、レポーターを有するマウスに投与して、エクソソームを介したCre recombinaseの運搬及び観察を試みた。しかし、Cre recombinaseの活性は観察できなかった。以上より、少なくとも今回の実験系において、エクソソームが細胞に取り込まれても、内包されたタンパク質が機能する効率は非常に低いことが分かった。
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