研究課題
がん細胞のwholemarkと言われる遺伝的不安定性は、主に細胞周期進行に伴う染色体の複製・伝搬の異常に起因する。細胞周期のS期とM期が連動して秩序正しく進行する事によりゲノムは安定に維持される。がん細胞においてはこれらの連係が異常になる事によりゲノム不安定性が誘導される例が知られている。逆にこれはがん細胞の脆弱性であり、治療の標的となる。私たちはS期を制御するCdc7キナーゼの構造・機能解析の過程でこれを阻害することにより多くのがん細胞において特異的に細胞死が誘導される事を見いだした。さらにこの細胞死は主に異常なM期進行に伴い誘導される。申請者はCdc7阻害によるS期の阻害が複製進行に遅延をもたらし、その結果がん細胞においては未複製領域が残存した状態で異常なM期に進行する事により細胞死が誘導されるという仮説を提案した。更にこの仮説に基づきS期阻害とM期促進を組み合わせて効率よいがん細胞死を誘導するという戦略を提案した。本研究ではこれらの仮説を検証し、がん細胞死誘導のメカニズムを解明し、さらに有効な制がん戦略を策定する。1 Colo205細胞(大腸癌)に細胞周期の種々のタイミングでCdc7阻害剤を添加した。その結果S期の前に薬剤を添加した場合には、次のM期に進入したところでDNA損傷と細胞死が誘導される。2 一方、G2期に薬剤を添加した場合に最初のM期ではなく次のM期に細胞死が誘導される。3 Cdc7阻害剤とWee1阻害剤(MK1755)を組み合わせることにより、単独で投与した場合より、効率よいColo205細胞の細胞死が誘導された。4 SAC(Spindle Assembly Checkpoint)に必要なMps1キナーゼ阻害剤との組み合わせでも同様な効果が観察された。
3: やや遅れている
Colo205(大腸がん)細胞あるいはHeLa(子宮頸がん)細胞を用いて、細胞周期を同調して、薬剤を添加し、S期終了時のDNAを回収し、そのDNA含量をMicroarray-based Comparative Genomic Hybridizationにより定量することを試みているが、相乗的に細胞死を誘導できる薬剤のoptimumな条件設定に時間がかかった。
現在、設定した条件を用いて、細胞を処理して、S期の終了した細胞を回収し、Microarray-based Comparative Genomic Hybridizationにより複製の完了していない領域の同定を試みている。Colo205、HeLa細胞などp53 negativeのがん細胞とともに、U2OSなどp53 positive のがん細胞、正常細胞でも同様な実験を行う。これにより、複製されにくい領域、S期の後期に複製される領域を決定する。正常細胞においては、複製の終了と細胞分裂期の進行を連動させるチェックポイントシステムが作動するため、複製が終了しない間は分裂期への進行を停止するシステムが作動し、細胞死が回避されると考えられる。そこで、Cdc7阻害あるいはCdc7+Wee1阻害時に、正常細胞の細胞死を誘導する表現型を指標に、siRNAライブラリーのスクリーニングを行い、複製終了と分裂期開始のチェックポイン制御に関与する因子を探索する。
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Cell Cycle
巻: 14 ページ: 74-85
10.4161/15384101.2014.973745.
Nature Struct. Mol. Biol.
巻: 22 ページ: 889-897
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