研究実績の概要 |
乳癌罹患率は女性癌の中で第一位を占め、我が国では 1 年当り約1万人以上が乳癌によって亡くなっている。乳癌は浸潤の有無によって、「非浸潤癌(DCIS)」と「浸潤癌」に大きく分けることができるが、DCIS に限定すると死亡率は 2%以下である。しかしその浸潤時期の予測は難しく、患者および医療従事者双方にとって大きな問題となっている。本研究では、病理標本上数万の細胞について形態特徴量を網羅的に測定した形態情報ビッグデータに対し機械学習を用いて解析することで、下記結果を得た。 非浸潤癌および良性病変と診断された乳腺症例を対象として、HE標本と免疫組織化学的解析を行い、whole slide scannerにてデジタル化した。そのデジタル化した各種病理標本のROI上の筋上皮細胞核から形態特徴量を抽出し、約1万個の細胞から形態情報マイクロアレイを作成した。その後、機械学習と統計処理を組み合わせることで、各症例毎のクラス分類を行った。その結果、癌細胞を用いずとも、その周囲に存在する筋上皮細胞の形態情報だけで、DCISを含む4つの組織型が90.9%の精度で分類できることがわかった。また癌周囲に存在する可能性が高いと機械学習により判定された細胞の特徴から、新しい乳癌浸潤メカニズムを提唱した(Sci Rep.7,46732,2017.)。本研究より癌と周囲の正常組織の画像解析を組み合わせることで、よりきめ細かく癌の悪性度を判別できる可能性があることがわかった。今後、病理分野における診断補助システムへの応用につなげていく予定である。
|