本申請研究は、多剤化学療法や分子標的治療の問題点である『腫瘍細胞の抗癌剤耐性能獲得』を解決すべく、腫瘍マクロファージ(Tumor-associated macrophages; TAMs)が『腫瘍細胞の幹細胞様特性の獲得とそれに伴う発ガン活性促進』を誘導する分子機序の解明を行い、臨床応用されている分子標的薬の治療効果改善のための基礎的知見を得ることを目的としてきた。平成27年度および平成28年度に引き続き、平成29年度期間中にTAMsのによるヒト腫瘍細胞の幹細胞様特性獲得誘導の解析を行ってきた結果、In vitro培養系における共培養により、ヒト腫瘍細胞の一部が幹細胞様特性を獲得すること、フローサイロメトリーによる幹細胞様特性を有する腫瘍細胞を分離して、免疫不全マウスへ移植すると、非常に高い腫瘍形成能を有することが明らかとなった。また、腫瘍より採取したTAMsの遺伝子解析の結果、いくつかの責任因子を同定することができた。さらに、責任因子の欠損マウスを作製し、腫瘍細胞移植後の腫瘍形成能の解析を行ったところ、腫瘍形成の抑制が確認され、さらに、転移能の抑制も確認することができた。この責任因子を欠損したTAMsと腫瘍細胞の共培養実験においても、腫瘍細胞の幹細胞様特性の獲得が抑制されることが明らかとなった。最後に、責任因子に対する中和抗体と抗癌剤との併用療法を行ったところ、腫瘍形成能の抑制を確認する事ができた。期間全体を通じて、TAMsの腫瘍細胞への幹細胞様特性を付与する分子機序の一端を明らかにする事ができ、さらに、難治性癌に対する新規治療法の開発へ繋がる基礎的知見を得る事が出来た。
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