膵臓癌におけるSox9の発現と抗癌剤耐性メカニズムにつき、in vitroの実験系において、Sox9の発現がゲムシタビンへの耐性と関連することを証明した。また抗がん剤耐性メカニズムにつき、Cancer stem cellの概念から検討し、sphere formation assay やFlow cytometryによりSox9は癌幹細胞を誘導することを証明した。さらにヌードマウスを用いた皮下腫瘍モデルによりSox9の発現が抑制されると腫瘍形成能が低下することを示し、これらの結果はPancreas. 2017;46(10):1296-1304.にacceptされた。 抗がん剤耐性因子としてのSox9に対して、直接これを制御する薬剤は開発されていない。そこで、膵原基形成期において前駆細胞でのSox9がNotchシグナルにより誘導され、膵内分泌細胞や膵管への分化を制御していることが知られており、Notchシグナルに注目した。Notch阻害剤(gamma secretase inhibitor)は生体に使用可能であり、Sox9を介した作用により、膵癌治療へ応用できるのではないかとの仮説のもと、検討した。本年度は、まず浸潤性膵管癌88症例の切除標本におけるNotch1の免疫染色を施行した。強陽性44例と弱陽性44例の臨床病理学的因子、予後を比較したが、有意差は認めなかった。一方切除標本におけるSox9とNotch1の発現には相関を認めた(p=0.035)。in Vitroにおいて、gamma secretase inhibitor投与によるSox9の発現について検討したが、Sox9の発現の変化を確認できなかった。さらに膵癌細胞株に対するgamma secretase inhibitorの増殖能等についても検討したが、残念ながら有意な影響は認められなかった。
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