研究実績の概要 |
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACI)はヒストン脱アセチル化酵素をターゲットとした新しいタイプの抗がん剤である。近年他剤との併用投与で奏効する研究結果が多く報告されているが、併用薬剤の決定にHDACI処理によるエピゲノム状態変化が考慮されている例はほとんどない。本研究ではHDACI処理によるエピゲノム状態変化をゲノムワイドに明らかにし、効率的な併用薬剤の選出に活用することを試みる。本年度は日本において皮膚T細胞性リンパ腫の適応で承認されているHDACIであるSAHA(Vorinostat、商品名ゾリンザ)をヒト急性T細胞性白血病細胞株Jurkatに処理した際の遺伝子の発現量変化を網羅的に解析した。その結果SAHA処理により発現が2倍以上増加した4,784遺伝子を特定した。網羅的発現量解析の結果とChIP-seqによるヒストンアセチル化状態の解析結果を統合したところ、SAHA処理による発現上昇がみられた4,784遺伝子のうち、ヒストンアセチル化も同時に観察されたのは329遺伝子(約7%)であり、SAHA処理により発現上昇する遺伝子の大部分はヒストンアセチル化を伴っていないことが明らかになった。これらはSAHAの直接的な作用によるものではなく、間接的な作用により発現上昇したものと考えられる。SAHA処理により発現上昇かつアセチル化が見られた遺伝子のGO解析を行ったところ、cell-matrix adhesionやapoptotic processに関連する遺伝子群が有意に含まれていた。JurkatはSAHA感受性細胞株であることから、SAHAによる抗腫瘍効果にはこれらの遺伝子群の活性化が関与していると考えられる。本研究により、SAHAによるエピゲノム変化が誘導するがん細胞死に関与する遺伝子群を明らかにすることができた。
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