研究課題
本研究はT-iPSCテクノロジーと、遺伝子操作技術を用いて、腫瘍微小環境内の免疫細胞を再活性化させる事による新規がん免疫療法開発のための基礎研究を確立することが目的である。本年度は①ヘルパー機能をもつ抗原特異的T細胞からiPS細胞の樹立と、T細胞への再分化誘導方法の確立並びに、②再分化T細胞の生体内抗腫瘍効果評価を目的としたヒト化がんマウスモデルの作成検討を行った。ヘルパー機能を持つ抗原特異的T細胞としてinvariant NKT(iNKT)細胞を使用した。複数のiNKT細胞クローンを我々が以前報告した方法で初期化を行った。樹立したiPS細胞クローンの多能性及び特性解析を行うとともに、造血前駆細胞を介したT細胞への分化誘導を行った。その結果、元の細胞と同じT細胞受容体を発現するとともに、同等のサイトカイン産生とヘルパー機能を持つ細胞を大量に作出することに成功した。この成果はStem Cell Report誌に掲載された。今後は後述のヒト化がんマウスモデルを用いて、再分化T細胞の生体内での抗腫瘍効果を検討する。我々はこれまでに重度免疫不全マウスに臍帯血由来造血幹細胞移植を行う事で、ヒトの免疫系を持つマウス(ヒト化マウス)の作成に成功している。今年度は先ずヒト化マウスに腫瘍株を移植する事で、移植がん細胞部位にヒト由来免疫細胞が浸潤するかの評価を行った。その結果、僅かではあるが腫瘍部位へのヒト免疫細胞の浸潤が検出された。同時に、ヒトサイトカインを補充したヒト化マウス内での単球系細胞への分化・成熟の検討を行った。ヒトサイトカイン補充によりヒト化マウス血液中にて単球が増える事が確認された。今後は上記の検討項目をふまえて、よりヒト免疫細胞が腫瘍部位に浸潤するマウスモデルの作成を進める。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定ではがん抗原特異的ヘルパーT細胞クローンを樹立後、初期化をする事でT-iPSを樹立する計画であったが、ヘルパーT細胞受容体拘束性を持つがん抗原の候補が少ない事などから難航した。そのため、抗原特異的にIFNgを大量に産生するヘルパー機能を持つT細胞として、iNKT細胞に着目した。研究室では既にiNKT細胞クローンから樹立されたiPS細胞があったため、これらをT細胞へ分化誘導後にin vitroでの機能評価を行った。結果、本研究の仮説検証に重要である抗原特異的にIFNgを大量産生するT細胞を大量に作成することに成功した。来年度は計画通り生体内での抗腫瘍効果と微小環境への影響の検証を中心に研究を進めていく。以上より、本研究課題は若干の計画の変更を伴ったものの現在までは順調に進展していると考える。
今後は計画通り、前年度で作出した再分化T細胞の生体内での抗腫瘍効果の評価を進めていく。具体的には、in vivo imagingで検出が可能な外来遺伝子を導入したがん細胞株をヒト化がんマウスモデルに移植後、再分化T細胞を移植する実験系で、移入細胞の抗腫瘍効果を定量的に評価する。また、他の抗原特異的ヘルパーT細胞クローンからのiPS細胞の樹立と再分化誘導も行う予定てある。
本年度において使用する予定であった、再分化T細胞の抗腫瘍効果評価用およびヒト化マウス作成に使用する免疫不全マウスの購入頭数が計画の遅延により当初の予定より少なかった為。
本年度に移植用の細胞作成を達成したため、次年度より順次再分化細胞の移植実験を進めていく。次年度使用額は、免疫不全マウスの購入にあてる。
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Stem Cell Reports
巻: 6 ページ: 213-227
10.1016/j.stemcr.2016.01.005