研究課題/領域番号 |
15K18451
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
窪田 大介 順天堂大学, 医学部, 助教 (70638197)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 骨肉腫 / 抗がん剤抵抗性 / チロシンキナーゼ / リン酸化 / 小分子化合物 / 腫瘍低酸素環境 |
研究実績の概要 |
骨肉腫は若年者に好発する悪性骨腫瘍である。化学療法の導入により骨肉腫の予後は改善されてきたが、一方で化学療法抵抗性の骨肉腫患者の予後は依然として不良で臨床的な問題点となっている。現在までに我々は骨肉腫の化学療法抵抗性を規定する分子を同定し、治療開始前に奏効性を予測するバイオマーカーの開発を進めてきた。本研究では、バイオマーカーの臨床応用を目指すと共に、化学療法抵抗性の骨肉腫に対する新規治療法の開発を行う。 申請者は新規治療法の開発にあたり、化学療法奏効性に関わるタンパク質, マイクロRNA(miRNA), チロシンキナーゼ(TK)に注目した。これまでに先行研究において抗癌剤奏効性に関与するタンパク質(PRDX2)とmiRNAを同定している。本研究ではこれらの分子を標的として、治療抵抗性骨肉腫に対する新規治療法の開発を目指す。またチロシンキナーゼ(TK)については、近年、骨軟部腫瘍領域においてもpazopanibというTK阻害剤が臨床で使われるようになり注目されている。しかしその適応は悪性軟部腫瘍に限られ、悪性骨腫瘍である骨肉腫に対する効果はいまだ明らかとなっていない。そこで我々は、骨肉腫におけるTKの発現を網羅的に評価し、骨肉腫において有効なTK阻害剤の探索を行う。 このよう骨肉腫は抗癌剤の奏効性をバイオマーカーにより事前に予測し、化学療法奏効性やTKの発現状況など個々の分子病態を把握した上で、最適化された治療を提供することが重要である。そしてこのように遺伝子背景を基とした治療戦略を確立することによって、長年改善のみられなかった骨肉腫の予後改善に寄与することが可能となる
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は主に骨肉腫の化学療法抵抗性に関わる分子である、PRDX2およびmiRNAが治療標的として有用であるかの検討を主に行った。タンパク質の網羅的な発現解析により化学療法奏効性予測バイオマーカーであるPRDX2を同定した。PRDX2は抗酸化タンパク質の一つで、腫瘍低酸素環境に関与するタンパク質である。腫瘍低酸素環境については、腫瘍組織内の重度の低酸素状態(ハイポキシア)が、腫瘍の増殖能や転移能、薬剤耐性、血管新生に関与することはすでに多くのがん疾患で知られている。今回はこの腫瘍低酸素環境の一因となるPRDX2の発現に注目し、その阻害剤であるconoidin-Aの骨肉腫に対する抗腫瘍効果の検討を行った。conoidin-AはPRDXの選択的阻害剤として存在しているが、腫瘍疾患に対する抗腫瘍効果については明らかとなっておらず、本研究が初の報告となる。conoidin-Aを骨肉腫細胞株に投与しMTTアッセイをおこなったところ、濃度依存性・時間依存性に細胞増殖を抑制することを明らかとした。また、conoidin-AはPRDX2の発現を抑制することを確認した。現在はconoidin-Aの抗腫瘍効果のメカニズムについての解析を腫瘍低酸素環境、アポトーシスを中心に解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は骨肉腫の新規治療標的候補と考えられたPRDX2阻害剤の腫瘍増殖抑制のメカニズム(アポトーシス等)についての解析を進めていく。また生体レベルでの抗腫瘍効果を確認するために、ゼノグラフトモデルを用いて、PRDX2阻害剤の有効性を確認する。現在、骨肉腫細胞株を用いたゼノグラフトモデルの作成の準備を進めている。 また、チロシンキナーゼに関しては、骨肉腫の臨床検体・細胞株を用いてヒトで発現するTKの発現をウェスタンブロット法および特異抗体・リン酸化アレイなどの手法を用いて網羅的な解析を行っている。また既に他の悪性腫瘍で臨床使用されているチロシンキナーゼ阻害剤に関しては、骨肉腫細胞株における有用性の検討を開始している。網羅的発現解析の結果とあわせ、骨肉腫に有用なチロシンキナーゼ阻害剤の探索をすすめ、骨肉腫細胞株を用いたin vitroでの抗腫瘍効果の確認、および生体レベルでの抗腫瘍効果の確認を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
治療抵抗性骨肉腫の新規治療標的開発を目指して、腫瘍低酸素環境を標的とした研究と、リン酸化タンパク質を標的とした治療法の開発を進めている。今年度は、網羅的なリン酸化タンパク質の発現解析を予定し、研究を進めているが、未だに治療標的となる分子の同定に至っていない。腫瘍低酸素環境を標的とした研究に関しては,順調に進行しているが、リン酸化タンパク質に関しては、研究に遅れが生じたため、期間延長を申請した。
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次年度使用額の使用計画 |
骨肉腫細胞株や臨床検体において特徴的に発現するリン酸化タンパク質を主にリン酸化アレイを用いて網羅的に調査を行う。また重要と考えられるリン酸化タンパク質については、細胞株を用いた機能解析をすすめ、新規治療標的としての有用性を検討する。本研究で治療標的として有用と考えれた腫瘍低酸素関連のタンパク質、およびリン酸化タンパク質については、その小分子化合物の抗腫瘍効果について調査する。またin vivoレベルでの有用性を確認するために骨肉腫のゼノグラフトモデルを作成し、生体内レベルでの抗腫瘍効果についても検討を行う予定である。
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