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2015 年度 実施状況報告書

H3K27ヒストン修飾によるエンハンサー制御機構の解析

研究課題

研究課題/領域番号 15K18453
研究機関東北大学

研究代表者

細金 正樹  東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 助手 (30734347)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2017-03-31
キーワードエピジェネティクス / 転写 / ヒストン修飾 / エンハンサー / CRISPR/Cas9 / ポリコーム
研究実績の概要

本研究課題では、エンハンサー領域のヒストンH3K27のアセチル化(H3K27ac)をH3K27のメチル化(H3K27me3)が積極的に抑制している可能性を検証することを目的とする。
平成27年度には以下の3点を主な目標として研究を遂行した。
(1)K562細胞は赤芽球系の細胞であり、転写因子GATA1が細胞特性の決定に大きな役割を果たしている。そこでH3K27me3欠損細胞においてGATA1及びアセチル化酵素p300のChIP-seq解析を行い、H3K27me3欠損によってGATA1/p300が結合する個所が増加するか調べた。その結果、H3K27me3欠損細胞においてp300の結合箇所は増加するものの、GATA1結合箇所には大きな増加は認められないことが明らかとなった。
(2)H3K27me3欠損ならびにコントロールK562細胞を用いてRNA-seq解析を実施した。H3K27me3欠損K562細胞ではGATA3とGATA6が大きく発現上昇していることが明らかとなった。これらの遺伝子周囲には新規にH3K27ac修飾部位が出現しており、エンハンサー制御の破たんによりK562本来のアイデンティティとは異なる遺伝子発現が生じていることが示唆された。
(3)CRISPR-Cas9システムとH3K27脱メチル化酵素の融合タンパク質の作製を開始した。脱メチル化酵素UTXの酵素活性ドメインをクローニングし、dCAS-UTX融合タンパク質発現プラスミドを作製した。このdCAS-UTX融合タンパク質と特定DNA配列を標的としたsgRNAをK562細胞に共発現させることで、dCAS-UTX融合タンパク質を標的DNA配列に動員することに成功した。しかしながら、dCAS-UTX融合タンパク質が動員されても、当該部位のH3K27me3量は不変であることが観察された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

平成27年度にはH3K27me3がエンハンサーを抑制する分子機構を解明する端緒として、転写因子GATA1とアセチル化酵素p300のChIP-seqを当初の予定通り施行した。コントロールK562細胞において、GATA1の認識配列の僅か1.3%にGATA1は結合しており、残りの98.7%にはGATA1の結合が抑制されていた。申請者らの解析ではH3K27me3修飾欠損細胞においてもGATA1結合個所の割合は1.3%から1.5%に増加したに過ぎず、H3K27me3修飾が転写因子の結合部位の制御を介してエンハンサーを制御する可能性は低いと考えている。一方で、p300の結合部位と結合量はH3K27me3修飾欠損細胞において増加が観察された。これらの知見に基づき、平成28年度にはH3K27me3によるエンハンサー制御機構として、H3K27me3によるp300制御により焦点を絞って解析を進めることとした。
エンハンサーの標的遺伝子の発現解析によって、H3K27me3修飾がGATA3とGATA6の転写を抑制することが判明した。K562細胞の分化系譜で発現しない遺伝子の発現上昇が認められることから、K562細胞本来の赤芽球系のアイデンティティが失われていることが示唆された。これらH3K27me3の標的遺伝子が同定できたことにより、dCAS-UTX融合タンパク質や4C解析で詳細な解析を行うエンハンサー候補の絞り込みを行うことができた。平成27年度に予定していた4C解析については、その条件検討となる3C解析を行うのみにとどまっており当初の予定より遅れている。そこで実験予定を変更し、dCAS-UTX融合タンパク質の作製を先行して開始した。本年度に作製したdCAS-UTX融合タンパク質はH3K27me3脱メチル化活性を有しておらず、平成28年度も引き続き融合タンパク質の作製方法の検討が必要である。

今後の研究の推進方策

平成27年度の研究の結果、UTXの酵素活性ドメインとdCASタンパク質の組み合わせでは機能的なdCAS-UTX融合タンパク質を作製できないことが明らかとなった。過去の報告では、dCASタンパク質とアセチル化酵素の酵素活性ドメインの融合タンパク質がアセチル化活性を有することが示されていたが、UTXとdCAS融合タンパク質の場合には酵素活性ドメインだけでは不十分であることが考えられる。そこで、平成28年度にはUTX全長のタンパク質配列や、別の脱メチル化タンパク質であるJMJD3とdCASの融合タンパク質を作製する。これら新しい脱メチル化酵素-UTX融合タンパク質で部位特異的なH3K27me3脱メチル化を検証する。また、in vitroでの脱メチル化アッセイを確立し、作製した融合タンパク質の脱メチル化活性の判定を容易にすることで効率化を図る。
H3K27me3欠損細胞の遺伝子発現解析によって、エンハンサーの標的遺伝子の候補を同定した。同定された遺伝子の中で、特にGATA3とGATA6は細胞の性質を決める転写因子なので、これらの遺伝子発現がH3K27me3によるエンハンサー制御下にある可能性を検証する。これらエンハンサーの標的となる候補遺伝子をさらに解析するために、平成28年度には4C解析を計画している。平成27年度より条件検討として継続中の3C解析によって、既存のエンハンサーと標的遺伝子の相互作用を確認できたのちに、4C解析を実施する。また、平成27年度に実施したChIP-seq解析の結果より、H3K27me3による転写因子制御よりもH3K27me3によるp300制御の可能性が高まった。そこで、平成28年度には、当初の予定に加えてdCASタンパク質とp300タンパク質の融合タンパク質を作製し、H3K27me3がp300によるアセチル化を抑制するかを部位特異的に検証することとする。

次年度使用額が生じた理由

平成27年度には次世代シーケンサーを用いたChIP-seqとRNA-seqを実施した。これらの結果に基づき、4C解析を年度末に実施する予定であったが、実験条件の検討等により実験予定が当初の予定よりもずれ込んでいる。そこで、平成27年度に使用予定であった4C解析関連の経費を繰り越しして平成28年度に使用することとした。

次年度使用額の使用計画

平成28年度は実験条件の検討を行ったのちに、4C解析を行う。4C解析ならびに条件検討の3C解析に必要となる生化学試薬、プラスチックウェア、次世代シーケンス試薬等を購入する予定である。また、dCAS脱メチル化酵素融合タンパク質やdCASアセチル化酵素融合タンパク質を作製するために必要な生化学試薬とプラスミドDNAの購入を予定している。

備考

がん医学コアセンター細胞増殖制御分野
http://www.devgen.med.tohoku.ac.jp/index.html

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2015

すべて 学会発表 (2件)

  • [学会発表] がん原遺伝子RASによる遺伝子サイレンシングの分子機構の解析2015

    • 著者名/発表者名
      舟山亮、細金正樹、長嶋剛史、中山啓子.
    • 学会等名
      第38回日本分子生物学会年会
    • 発表場所
      神戸コンベンションセンター(兵庫県神戸市)
    • 年月日
      2015-12-01 – 2015-12-04
  • [学会発表] TGF-β刺激によるTFIID構成因子TAF7の分解とその役割の解明2015

    • 著者名/発表者名
      中川直、細金正樹、舟山亮、中山啓子
    • 学会等名
      第38回日本分子生物学会年会
    • 発表場所
      神戸コンベンションセンター(兵庫県神戸市)
    • 年月日
      2015-12-01 – 2015-12-04

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公開日: 2017-01-06  

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