研究課題/領域番号 |
15K18455
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
服部 佑佳子 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (50646768)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 栄養バランス / 適応 / 種間比較オミクス |
研究実績の概要 |
全ての生物は絶えず変化する環境要因にさらされており、その主な要因の一つは栄養である。我々は、栄養バランス変化に対して個体がどのように応答し、発生や成長などの生命活動が支えられているかを明らかにするために、食性の異なるショウジョウバエ近縁種に注目した。モデル生物キイロショウジョウバエは、自然界では発酵した多種類の果物を食べ(広食性)、適応できる栄養条件の幅が広い。一方で、その近縁種には特定の花や果実のみを食性とする(狭食性)種も存在する。我々は、広食性2種と狭食性3種を用いて、栄養バランス変化に対する応答を対比させた。栄養バランスをタンパク質と炭水化物の比として捉え、この比が異なる複数の食餌条件で各種の幼虫を育てたところ、栄養バランス変化への適応能力が種間で大きく異なることを見出した。広食性種ではどの食餌条件でも蛹までの発生率が高い一方で、狭食性種は炭水化物を多く含む餌での発生率が顕著に低下した。さらに、これらの近縁5種の幼虫全身を用いた RNA-seq 解析により、食餌間での遺伝子発現変化を比較したところ、広食性種と狭食性種とで発現変化が大きく異なることを明らかにした。また、近縁2種でのメタボローム解析により食餌間での代謝産物を比較した結果、高炭水化物食条件下の狭食性種では、解糖系や TCA 回路の中間代謝産物が増加していることが分かった。このように広食性種が栄養依存的に遺伝子発現を調節し、代謝恒常性を維持する機構として、栄養バランス変化に応じて活性化するシグナル伝達経路があるのではないかと考えた。そこで、狭食性の発生率低下に寄与する栄養バランスの構成因子を調べるとともに、候補経路の探索を行った結果、現在 Activin シグナル伝達経路に着目し、解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
複数のオミクス解析を統合した比較解析により、広食性種と狭食性種との栄養バランス変化への応答の違いを見いだすことができた。当初計画に従い、順調に研究を進めた結果、生物種間での適応能力の差を生み出す候補として、Activin シグナル伝達経路にたどり着いた。現在、その経路が代謝恒常性などの適応に果たす役割や、生物種間での働きの違いについて解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
我々は、Activin シグナル伝達経路の違いが、栄養バランス変化に対する種間の適応能力の違いを生み出すとの仮説を立てている。そして現在、シグナル伝達経路の各ステップを種間で比較している。広食性種と狭食性種では、具体的にどのステップがどのように異なることで適応能力の差が生まれるのかを解明したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画に従い、順調に研究を進めた結果、生物種間での適応能力の差を生み出す候補として、Activin シグナル伝達経路にたどり着いた。現在、その経路が代謝恒常性などの適応に果たす役割や、生物種間での働きの違いについて解析を進めている。全容の解明と論文報告には、注目している分子のタンパク質レベルでの解析や追加でのメタボローム解析などが必要であり、補助事業期間の延長が必要である。
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次年度使用額の使用計画 |
広食性種、狭食性種に加えて Activin シグナル伝達経路の変異体を用いてメタボローム解析を行い、代謝の恒常性が維持できているかの比較を行う。また、狭食性種では、Activin シグナル伝達経路のどのステップに異常が生じることによって、栄養バランス変化に適応できないのかを解明する。具体的には、ゲノム配列の比較に加えて、栄養バランスが変化した場合のタンパク質量、リン酸レベルなどを比較解析する。
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