研究課題
骨格筋分化では、ヒストンH3バリアントの一つであるヒストンH3.3が、分化前から分化特異的遺伝子を“マーキング”することで分化後の選択的な遺伝子発現をもたらす。ゆえに、ヒストンの選択的な取り込み機構は、骨格筋分化において最も初期の遺伝子選択機構であると考えられる。質量分析の結果、H3mm7は骨格筋組織で高く発現していたことから、骨格筋におけるH3mm7の機能解析を行った。骨格筋分化過程におけるH3mm7のRNA発現レベルを評価したところ、骨格筋幹細胞ですでに発現していたことから、分化初期から機能していることが示唆された。そこで、CRISPR-Cas9システムを用いて骨格筋芽細胞C2C12細胞でH3mm7遺伝子座をノックアウト(KO)した細胞株を作成した。mRNA-seqにより骨格筋分化能を評価したところ、H3mm7 KO細胞は野生型に比べ骨格筋分化が遅延していた。一方で、GFPを融合させたH3mm7を強制発現させたH3mm7KO株は、骨格筋分化能が回復した。H3mm7を含むヌクレオソームの結晶構造解析により、H3mm7の特性を調べたところ、H3.3のアミノ酸配列と異なる2つのH3mm7固有のアミノ酸のうちA57が構造不安定性をもたらすことが示唆された。生化学的アプローチによる機能解析により検証した結果、H3mm7を含むヌクレオソームはH3.3ヌクレオソームに比べて不安定であることが示された。次に、H3mm7遺伝子を持たないNIH3T3線維芽細胞にMyoDを強制発現させ骨格筋形質転換を誘導する系を用いて、H3mm7及びS57A変異を持つH3.3を発現させたNIH3T3は、野生型に比べ骨格筋分化が促進されていた。これらのことから、H3mm7は、分化過程で骨格筋遺伝子に優先的に取り込まれることでヌクレオソームを不安定化し、遺伝子発現を促進していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度の目的のひとつである、H3mm7の責任残基の同定を生化学と細胞生物学の両面からできたことは、大きな進歩であるといえる。具体的には、H3mm7の遺伝子座が欠損していると考えられるマウス線維芽細胞NIH3T3を用いて、H3.3の32番目のThrをIle、57番目のSerをAlaに置換することでH3mm7様の変異を1つ加えたGFP融合DNAを過剰発現させ株は、MyoDの強制発現による形質転換後の分化誘導により、分化マーカーがH3mm7とH3.3 S57A強制発現株のみが、分化誘導後早期に発現することが明らかとなった。また、共同研究によるリコンビナントヒストンを利用した再構成ヌクレオソームにおける熱安定性実験や結晶構造解析も、A57が責任残基であることが確認された。
今後は、生化学解析で示唆されたH3mm7から構成されるヌクレオソームの不安定性を、細胞レベルで実証する。具体的には、野生型とH3mm7ノックアウト細胞の比較により、H3mm7の取り込みの有無がゲノムのアクセシビリティーやRNAポリメラーゼⅡのリクルートに影響を及ぼすか検証する。また、ヌクレオソームを構成する他のヒストンの取り込みに影響しているのかについても、評価を行う予定である。また、マウス骨格筋細胞を用いてH3mm7結合因子の精製、同定を行う。H3mm7-GFP発現細胞においてH3mm7結合タンパク質の同定を試みる。また、質量分析でH3mm7特異的に同定された分子は、順次、高親和性モノクローナル抗体の作製を行い、ChIP-seqによりゲノム上での局在性を解析する予定である。
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