研究課題/領域番号 |
15K18458
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
関田 洋一 北里大学, 理学部, 准教授 (20431950)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / DNAメチル化 / ゲノムインプリンティング |
研究実績の概要 |
平成27年度に単離したインプリンティング領域のメチル化DNAに結合する因子の解析を進めた。このような因子の1つにクロマチンリモデリング因子の構成タンパク質があり、これを過剰発現させたES細胞では、インプリンティング領域のDNAメチル化が低下することを見いだした。メチル化DNA酸化酵素であるTetをCRISPR/Cas9システムを使ってノックアウトしたES細胞では、クロマチンリモデリング因子を過剰発現させてもDNAメチル化の低下は起こらなかった。このことから、今回観察されたインプリンティング領域のDNAメチル化低下は、Tetに依存的であることが分かった。クロマチンリモデリング因子の過剰発現はクロマチン構造を変えると考えられ、この構造変化がTetのインプリンティング領域への結合能を上昇させているのではないかと予想している。そこで、Tetのインプリンティング領域への結合が、クロマチンリモデリング因子の過剰発現により、どのように変化するかを、クロマチン免疫沈降法によって解析する準備を進めている。 タンパク質のインプリンティング領域での結合アレルを特定するため、ES細胞で一塩基多型を使った解析を行っている。クロマチンリモデリング因子のインプリンティング領域での結合能が、既知の因子と比べて大きくないため、通常のクロマチン免疫沈降法で用いる細胞数では十分なゲノムを調整することができなかった。現在はスケールを上げて、解析を行っている。 一方、enChIP法によるスクリーニング系の改善を試みたが、バックグランドを下げることができず、更なるインプリンティング領域結合因子の単離には至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インプリンティング領域のメチル化DNAに結合する新規因子の単離に成功し、この因子がDNA脱メチル化に関与することを見いだした。DNAの脱メチル化にはTetが関わる経路が知られている。そこで、CRISPR/Cas9システムを使って、Tet1とTet2の2つの遺伝子を同時に欠損させたES細胞を樹立した。このES細胞を使った実験から、今回観察されたDNAの脱メチル化にTetが関与していることを明らかにした。 インプリンティング領域のDNAメチル化状態は、父親由来のアレルと母親由来のアレルで異なっている。これまでの結果は、父親由来のゲノムのみを持つES(Androgenetic ES; aES)細胞と母親由来のゲノムのみを持つES(Parthenogenetic ES; pES)細胞を使った実験から得られた。現在は、通常のES細胞を使って、これらの結果を検証している。そのために、父親由来のアレルと母親由来のアレルを、一塩基多型によって区別することができるES(BJ ES)細胞をクローニングした。また、インプリンティング領域のDNAメチル化状態がアレル間で異なることを確認したクローン化ES細胞を得た。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、現在注目しているクロマチンリモデリング因子構成タンパク質のインプリンティング領域への結合のDNAメチル化感受性と、DNA脱メチル化への関与を、BJ ES細胞を使って検証する。また、この因子によるDNAの低メチル化誘導を利用して、iPS細胞樹立への影響とマウス発生に与える影響を検討する。 インプリンティング領域への結合のDNAメチル化感受性と、DNA脱メチル化への関与の解析では、BJ ES細胞にクロマチンリモデリング因子構成タンパク質をレンチウィルスによって導入する。タグペプチドを利用してクロマチン免疫沈降を行い、沈降してきたゲノムDNAを解析し、メチル化感受性を検討する。また、因子を導入した細胞のインプリンティング領域のDNAメチル化状態を解析することで、DNA脱メチル化への関与を明らかにする。 さらにDNA脱メチル化への関与については、クロマチン構造の変化によりTetの活性やDNAへの結合が変化するという予測している。このことを、Tetを標的としたクロマチン免疫沈降法で検証する。 一方、Tetの活性化はiPS細胞の樹立効率を上昇させることが知られている。そこで、iPS細胞作成時にTetを活性化すると予想しているクロマチンリモデリング因子も一緒に導入することで、iPS細胞の作成効率にどのような影響が出るかを調べる。 過剰発現によるインプリンティング領域の低メチル化誘導は、DNAメチル化異常によって引き起こされるインプリンティング疾患のモデル動物の作成につながるかもしれない。このことを検討するため、マウス受精卵に、試験管内合成したクロマチンリモデリング因子構成タンパク質のmRNAを導入する。そして、(1)胚盤胞でのインプリンティング領域のDNAメチル化状態への影響、および(2)仮親移植した場合の、発生後期での表現型を解析する予定である。
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