研究実績の概要 |
細胞核内では各染色体が完全に混ざりあうこと無く個々の領域を保ち、DNAや核内タンパク質からなる核内構造体が不均一に分布している。また、特定の遺伝子の発現には、プロモーターと遠方の転写調節領域の相互作用が影響することが知られている。しかし、染色体や核内構造体の空間配置は細胞分裂ごとにランダムに決まり、また間期において動的に揺らいでおり、細胞間で遺伝子発現制御能の多様性を生む要因となり得るが、技術的困難が多く、詳細は不明である。本研究では、1)内在遺伝子の転写と核内配置の同時可視化システムを確立し、2)本システムを利用してマウス胚生幹細胞における遺伝子発現量の不均一性の発生メカニズムの解明を目指す。一昨年度までに1)のシステム、Real-time Observation of Localization and EXpression (ROLEX)システムを確立し、それを利用した解析からNanog遺伝子の確率的な転写活性化には、Nanog遺伝子と複数の遠方ゲノム領域との不安定な相互作用が関係していることが示唆された(Ochiai et al, NAR, 2015)。また、これらNanogと相互作用する領域に密集したSox2クラスターを形成することが報告されている。HHMI Janelia CampusのZhe Liu博士はこれまでに生きたマウスES細胞内で、Sox2クラスターを可視化する技術を確立している。Zhe Liu博士と共同で、Nanogの上流転写因子であるSox2の細胞内クラスターとROLEXシステムを利用してNanog遺伝子の転写と核内局在のライブイメージングを行ったところ、Nanogの転写時にSox2クラスターがNanog領域により近傍に位置する傾向があることがわかった。このことから、Nanog遺伝子領域の空間的な異質性が発現量に影響を与えている可能性が示唆された。
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