研究課題
先行研究により、コムギ無細胞系を用いて作製した完全長のCYLD組換えタンパク質を用いて、ポリユビキチン鎖切断(poly-Ub鎖)をAlphaScreen法によってハイスループットかつ高感度に検出する1次スクリーニングを行い、9,600種類の化合物ライブラリーより、CYLDの直鎖型ポリユビキチン鎖に対するDUB活性を阻害する8種類のヒット化合物を見出していた。本申請研究においては、選抜された8種類について、より詳細な阻害効果や基質となるpoly-Ub鎖の特異性、さらにCYLD以外のDUBへの阻害効果について調べることで、CYLDのDUB活性を特異的に阻害する化合物を生化学的手法により同定する高次解析を行った。当初CYLDのDUB活性を検出する高次解析ではウェスタンブロット法を予定していたが、より安定的かつ定量的にDUB活性を検出可能なRuby染色法によるアッセイの構築に成功した。このアッセイ系により、阻害効果が高かった化合物2種類(化合物Aおよび化合物B)を見出した。化合物AおよびBはその構造にほとんど類似点がなく、異なった作用機序を持つものと期待され、以降はこの2つについてさらに詳細な解析を行った。CYLDはUSPと呼ばれるセリンプロテアーゼ型のDUBファミリーに属しているが、化合物Aはファミリーに依存せず、多くのDUBの活性を阻害したが、化合物BはUSPファミリーのみDUB活性を抑制した。さらに、化合物AおよびBはヒト培養細胞においてNF-κB活性を上昇させることが明らかとなった。細胞毒性試験より、化合物Aは10 µM程度で細胞に毒性を示すものの、化合物Bは同濃度ではほとんど影響を及ぼさなかった。これらのことから、化合物Bは細胞内においてNF-κBの負の制御因子であるCYLDを機能阻害することで、NF-κBを正に制御している可能性が強く示唆され、ケミカルプローブとしての応用が期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
27年度は、ヒット化合物候補8種類の中から阻害効果の高い化合物を選抜し、それらのCYLDへの作用機構について生化学的解析を用いて明らかにすることを予定していた。その結果、CYLDの活性を顕著に阻害する化合物2種類を同定し、それらのポリユビキチン鎖特異性や、他のDUBに対する阻害効果についても明らかとした。これらのことから、27年度に計画していた研究はほぼ終了し、有望なヒット化合物を得るに至っている。さらに28年度に予定していた培養細胞を用いた実験の一部についても既に着手しており、特に化合物Bは細胞毒性が低く、細胞内においてNF-κB活性を増加させることから、非常に有望な化合物であると考えられる。以上の結果から、当初の計画以上に進展していると判断した。
化合物AおよびBについて、培養細胞を用いたNF-κB経路への影響について更に詳細な解析を行う。27年度にこれらの化合物がNF-kB経路を活性化することを予備実験的に明らかにしているが、28年度は化合物が細胞内でCYLDの脱ユビキチン化酵素活性を抑制することでNF-κB活性を上昇させていることを分子レベルで検証する。さらに、CYLDはNF-κB経路以外にもインターフェロン(IFN)誘導を抑制する因子であることから、これらの化合物がIFN誘導経路に作用するか否かについて明らかとする。また化合物AはCYLD以外のDUBの活性も阻害することや細胞毒性を示すこと、化合物BについてもUSPファミリーに属する他のDUBに作用することから、化合物の構造を改変した類縁体化合物を用いて、特異性の向上および細胞毒性の低下を目指す。
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PLoS Pathogen
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