本研究は真正細菌におけるリジンの翻訳後アセチル化による翻訳制御機構を理解することを目的としている。前年度までにアセチル化タンパク質再構成システムを用いて、大腸菌アラニル-tRNA合成酵素(AlaRS)の74番目のリジンをアセチルリジンに置換した変異体AlaRS K74Acを調製し、アセチル化がAlaRSの活性を大きく減弱させること、このアセチル化がin vivoでは脱アセチル化酵素(CobB)によって除去されAlaRSの活性が復元することを明らかにした。 本年度はAlaRS K74Acが翻訳後に脱アセチル化されるかどうかを確かめるため、in vitroでの脱アセチル化反応を行なった。大腸菌でN末端の長さが異なる2種のCobBが発現していることを確認し、全長のCobBと短いCobB-Sをそれぞれ調製した。AlaRS K74Acの脱アセチル化反応をCobBおよびCobB-Sを用いて行ったが、両者で脱アセチル化は見られずin vivoとは異なる結果を得た。この違いを明らかにしなければCobBによるAlaRSの活性制御機構を明らかにできないと考え、CobBの解析を進めた。これまでの結果から「① AlaRS K74Acはリボソーム上で折りたたまれる前にCobBにより脱アセチル化された。」、「② 再構成システムのアセチリルリジル-tRNAがCobBやCobB-Sの基質となった。」という仮説を立てた。今回は①の解析を中心に進めた結果、CobBとCobB-Sでは細胞内局在が異なり、CobBがリボソームと相互作用することを発見した。AlaRS K74Acの脱アセチル化がCobBに由来するものかどうかを調べるため、CobB-Sのみを発現する大腸菌株を用いて、AlaRS K74Acを調製した。このAlaRS K74Acの活性は復元したことから、①の仮説には当てはまらないことが分かった。
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