研究課題/領域番号 |
15K18479
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
加生 和寿 九州大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (90726019)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 染色体複製 / 大腸菌 / IHF / DnaA / 細胞周期 / DARS2 |
研究実績の概要 |
大腸菌のDNA複製は、細胞周期に応じて適時的に開始される。この複製開始タイミング制御には、特異的な非コードDNA因子DARS2による開始蛋白質DnaAの適時的な活性化が必要である。申請者は、DNA結合蛋白質IHF、及びFisがDARS2を活性化することを解明した (Kasho et al, 2014 Nucleic Acid Res.)。また、IHF、FisによるDARS2活性化はDNA高次構造が必要である (加生、未発表データ)。さらに申請者は、細胞周期に応じたDARS2-IHF複合体の結合・解離を見出た。しかしながら、適時的なDARS2活性化のメカニズムと制御様式は不明である。本研究では、DARS2 活性化の分子機構、及び適時的なDARS2活性化の制御様式を解明することを目的とする。 申請者は研究計画に沿って、DARS2のDnaA結合部位の変異体解析によりDARS2上で形成される蛋白質高次複合体の解析を進めた。適時的なDARS2活性化制御の解析について、申請者はカラムクロマトグラフィーによる大腸菌蛋白質粗抽出液の分画によりIHF解離因子の精製を進めた。加えて、IHFのDARS2結合がDNA高次構造に依存している可能性を見出した。さらに、DARS2の細胞内局在解析について、染色体DARS2の位置を変化させた変異株の複製開始能を解析することで、DARS2の局在制御が適時的な複製開始に重要であることを示唆する結果を得た。これらの成果は、DARS2の適時的な活性化を介した複製開始制御の解明に繋がる。申請者は、これらの成果を第38回分子生物学会年会で発表した。また、DARS2局在解析の成果については現在論文投稿中である (Inoue, Kasho他)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各研究課題について、ほぼ計画通りに実施することができた。 A. IHF、Fis によるDARS2 活性化の分子機構の解明 申請者はDARS2のDnaA結合部位の解析により細胞内で複製開始が過剰に活性化されるDARS2変異体を単離した。加えて、DnaAとIHF、Fisとの相互作用が架橋試薬を用いた解析により示唆された。これらの解析は、DARS2上で形成される蛋白質高次複合体の解明に繋がる。 B. DARS2 による適時的なDnaA 活性化機構の解明 申請者は、ゲルシフト法を基にした簡便なDARS2-IHF複合体解離の解析系を構築し、蛋白質粗抽出液からIHF解離因子を探索した。現在までに、カラムクロマトグラフィーにより高いIHF解離活性を持つ画分を調製することに成功した。また、申請者はDARS2-IHF複合体形成の制御にDNA高次構造が重要である可能性を見出した。さらに申請者は、共同研究により細胞周期に応じたIHF結合制御のゲノムワイド解析を試みた。その結果、複製開始時に広くIHFの結合が低下する事が示唆された (論文執筆中)。この結果は、DARS2以外のDNA領域をIHF解離因子が認識する可能性を示唆している。 加えて、DARS2の細胞内局在解析について、研究協力者の解析により染色体DARS2の位置を変化させた変異株でDARS2による複製開始促進能が低下することが分かった (Inoue, Kasho et al, 論文投稿中)。この結果は、DARS2の局在制御が適時的な複製開始に重要であることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
A. IHF、Fis によるDARS2 活性化の分子機構の解明 DARS2、及びDnaA変異体を用いたゲルシフト解析により、DARS2上で形成されるDnaA複合体の詳細な構造を解析する。さらに、フットプリント法を用いてDARS2-DnaA複合体形成におけるDNA高次構造の重要性を検証する。さらにこれらの解析を発展させるために、九州大学生体防御医学研究所の真柳 浩太 助教 (研究協力者) の技術指導の基、電子顕微鏡を用いた解析によりDARS2上で形成される高次複合体の全体構造を確認する。 B. DARS2 による適時的なDnaA 活性化機構の解明 調製したIHF解離活性を持つ画分について、Hisタグ融合型IHFを用いたプルダウン法によりDARS2-IHF複合体を解離させる因子を同定する。加えて、決定したIHF解離因子の転写プロモーターの配列解析からIHF結合・解離の上位制御機構を解明する。 さらに、細胞周期に応じたDARS2-oriC共局在制御を3C (Chromosome conformation capture) 法により解析する。増殖速度が速い条件でDARS2の局在性を解析することで増殖環境に応じたDARS2局在性の制御機構を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請者は実施計画通りIHF解離因子の精製を進める事に成功したものの、マススペクトル解析には至っておらずMS 用銀染色キットの購入を次年度に持ち越した。また、DARS2局在制御について、DARS2移動株の解析についての論文執筆を優先させたため3C法を基にした計画の一部を次年度に持ち越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
IHF解離因子の精製、及び3C法による解析を継続して行うため次年度使用額を以下の使途で執行する。使用計画はIHF解離因子の探索に用いるMS 用銀染色キット100,000円、及び3C解析用の定量PCR試薬70,000円の購入である。
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