研究課題/領域番号 |
15K18480
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
深尾 亜喜良 近畿大学, 薬学部, 助教 (50733979)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | RNA結合蛋白質 / 翻訳制御 |
研究実績の概要 |
発生や分化のような高次生命現象では、特定の遺伝子が特定の時期・場所に適正量供給されるような時空間的な遺伝子発現制御機構が必須であり、様々なRNA結合蛋白質の仲介により可能となっている。神経細胞特異的に発現しているRNA結合蛋白質の1つとしてHuDが挙げられ、これまでの研究からHuDはmRNAの翻訳活性化機能を有すること、そしてHuDの翻訳活性化機能が神経分化誘導に必須であることが示されてきた。またHuDは神経突起中を輸送されるmRNA-蛋白質複合体(mRNP)に含まれ、標的mRNAの翻訳スイッチとして機能する可能性が示唆されている。本研究ではHuDの翻訳活性化機能に対して阻害的に働く因子を同定することでmRNP輸送時の翻訳抑制機構を分子レベルで解明することを目的としている。 本年度は前年度の研究によりHuDとの相互作用が確認された候補因子について、各因子を過剰発現させた細胞抽出液を調製しHuDの翻訳活性化機能への影響を解析した。その結果、脊髄性筋萎縮症(SMA)の原因遺伝子として知られるSMNがHuDの翻訳活性化機能を阻害することが明らかになった。またHuDとの結合能を欠失させたSMN変異体はHuDの翻訳活性化機能を阻害しなかった。このことから、SMNはHuDとの結合を介してHuDのもつ翻訳活性化機能を阻害するという可能性が示唆された。また、主として核局在を示すSMNがHuDとの共発現により細胞質へ移行することが明らかとなった。これは、これまで不明であったSMNの細胞質における機能を知る上で非常に重要な結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に引き続きHuDとの相互作用が確認された既知因子(KIF3A、IMP1、SMN)に関してHuDの翻訳活性化機能に対する効果を無細胞in vitro翻訳システムにより解析した。そして、候補因子の1つであったSMNがHuDとの結合活性依存的にHuDの翻訳活性化機能を阻害することを明らかにした。さらに、主として核局在を示すSMNがHuDとの共発現により細胞質へ移行することを明らかにし、これまで不明であったSMNの細胞質における機能を知る上で非常に重要な結果を得た。以上のように、本年度の研究からHuDとSMNの結合を介したmRNA-蛋白質複合体(mRNP)の翻訳抑制機構が存在する可能性を見出すことができた。本研究においてHuDと相互作用する因子によるHuDの翻訳活性化機能阻害を当研究室のもつ無細胞in vitro翻訳システムを用いて再現することは最も重要な課題であり、今後の分子機構解明に必須である。これらの観点から、本研究課題は順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、HuDによるmRNAの翻訳活性化機能がSMNによって阻害されることを明らかにした。さらに、SMNのTudorドメインへの変異導入により、HuDとの相互作用およびHuDの機能阻害効果が失われることを明らかにした。これらのことから、HuDとSMNの結合を介したmRNA-蛋白質複合体(mRNP)の翻訳抑制機構が存在する可能性を見出すことができた。今後は、HuDおよびSMNを含むmRNPがどのような分子機構で翻訳抑制状態を維持しているのかをショ糖密度勾配遠心およびmRNA pull-down法などの生化学的手法を用いて解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として使用するため当該年度内に発注をしていたが、在庫切れにより納品の遅延が生じたため、予算の執行は次年度に持ち越された。
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次年度使用額の使用計画 |
遅延していた物品は既に納品済みであり次年度使用額は早々に執行されるため、使用計画に大幅な変更はない。
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