Translocated in liposarcoma (TLS)は転写調節や遺伝子の維持などの種々の機構に関わる核酸結合蛋白質である。しかしTLSの機能発現に重要なTLSと核酸の相互作用機構は十分に明らかにはされていない。本研究課題では、Cyclin D1遺伝子 (以下CCND1)の転写抑制およびテロメア長短縮というTLSが関与する2つの制御機構に関して、TLSの機能発現をもたらすTLS-非コード核酸間相互作用の構造基盤の解析を目的とする。 TLSはCCND1の上流から転写される非コードRNAと結合することにより、CCND1の転写抑制をもたらす。非コードRNAから見出されたTLS結合領域の構造をNMR法により解析し、ステムループ領域と一本鎖領域からなる二次構造を決定した。その後、非コードRNAの各領域について、TLSのRGG3ドメインとの結合実験を行い、非コードRNAの一本鎖領域がRGG3ドメインとの結合を担うことを明らかにした。この成果を国際学術雑誌に掲載した。 TLSは、RGG3ドメインを介してテロメアDNAやそれに由来するRNAであるTERRAの四重鎖と結合し、複合体を形成する。この複合体形成によってヒストン修飾酵素がリクルートされ、テロメアの短縮がもたらされる。私はテロメアDNAおよびTERRAについて、RGG3との結合実験を行い、相互作用に関与する核酸残基を一部同定した。また、RGG3-テロメアDNA二者複合体、RGG3-TERRA二者複合体、およびRGG3-テロメアDNA-TERRA三者複合体を調製し、多次元NMR法による解析を行った。その結果、三者複合体ではRGG3のフェニルアラニン残基とチロシン残基がそれぞれテロメアDNAとTERRAの結合を担うことを示した。一方で二者複合体では、フェニルアラニン残基とチロシン残基の両方がテロメアDNAあるいはTERRAの1種類の核酸に結合することを示した。以上の成果を平成29年度に国際学術雑誌で報告した。
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