研究課題
本研究は、呼吸鎖電子伝達系の主要な膜蛋白質群である膜蛋白質複合体シトクロムbd(Cytbd)と基質との新規な複合体構造を高分解能で決定し、低酸素条件下という特異的な環境で働くCytbd の電子伝達機構の詳細を原子レベルで解明することを目的とする。申請者は、すでにCytbd複合体の結晶を得ており、6オングストローム分解能の回折強度データを収集しているが、詳細な反応メカニズムの解明には、基質結合部位のより高分解能での構造決定が必須である。しかしながら昨年度、申請者は精力的にCytbd複合体結晶の分解能の向上に努めていた矢先、Cytbd単体の結晶構造決定が欧州のグループよりなされた(3.05オングストローム分解能)。そこで、本研究では基質との複合体結晶のさらなる高分解能構造決定(3オングストローム分解能以上)を目指し、基質との高品質共結晶の作製ならびに得られた高品質結晶の損傷を抑えた回折強度測定に向けた解決策を実施した。本年度も引き続きCytbd複合体のさらなる均一化を目的とした基質複合体の高分解能結晶の作製に着手した。本年度はまず昨年度に界面活性剤のスクリーニングによって得られた選抜条件を用い、Cytbd複合体結晶を量産した。得られた結晶は回折データ測定時の扱いによる損傷を回避する必要がある。そこで、その解決策として、4つの手法; (1)抗凍結剤の最適化、(2)結晶凍結時の脱水効果、(3)高圧凍結法、(4)回折データ測定時の新規な脱水法を実施した。その結果、結晶凍結時の脱水効果で基質複合体結晶の最高回折分解能は6オングストロームから4.8オングストローム分解能へと向上した。現在、さらなる分解能の向上に向けて最適化を進めている。
2: おおむね順調に進展している
シトクロム bd (Cytbd) 基質複合体の高分解能化に向けて、本年度は以下の4項目を実施した。まずは、(1) 抗凍結剤の最適化を実施した。抗凍結剤の検討が不十分だと、抗凍結処理の段階で結晶を劣化させることがある。そこで、得られた結晶の抗凍結剤のスクリーニングを行い、段階的に抗凍結剤濃度を上げることで結晶損傷の軽減を試みた。その結果、結晶のモザイク性がやや向上したが大きな分解能の改善には至らなかった。次に (2) 結晶凍結時の脱水効果を検討した。結晶凍結時のポリエチレングリコール (PEG) による脱水操作に取り組み、浸漬する PEG濃度、結晶浸漬時間などの数多くの条件検討を繰り返し行った。その結果、最高到達分解能が 6オングストロームから 4.8オングストローム分解能に向上し、結晶のモザイク性も向上した。続いて得られた結晶の凍結法として (3) 高圧凍結法を実施した。高圧凍結法は蛋白質結晶を高圧条 件下(150 MPa以上)で凍結させることにより、抗凍結剤なしでも結晶にダメージを与えずに凍結する方法である。しかしながら、本結晶は凍結時にクラックが入るなどダメージが大きく、条件検討を行ったらが分解能が向上することはなかった。さらに (4) 回折データ測定時の新規な脱水法を取り入れた。この方法は結晶を水溶性高分子の水溶液でコーティングした状態で、回折 装置にマウントした後、湿度を調整したガスを吹き付ける新規な脱水法(Humid Air and Glue-coating method )である。この手法でも本結晶の分解能向上には至らなかった。しかしこの脱水法から、本結晶は90%以上と高湿度でないと安定でないことがわかった。以上の結果より、本年度の実施事項はおおむね順調に進んでいる。
シトクロム bd (Cytbd) 基質複合体構造解析における本年度の取組みによって分解能が向上した。しかしながらその矢先、昨年度欧州のグループにCytbd単体の立体構造が報告された。そこで本研究では先行グループとは異なる基質との複合体構造で、先行グループの構造より、更に高分解能での構造決定を目指すという方向での意義がさらに明白となった。今後はCytbdの基質との高品質共結晶の作製ならびに得られた高品質結晶の損傷を抑えた回折強度測定に向けた解決策を実施しながら、得られた回折像を用い、初期位相モデルに欧州グループの構造モデルを用いた分子置換法によって高分解能構造解析を完遂する。
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Nature Commun.
巻: 8 ページ: -
10.1038/ncomms14397