研究課題/領域番号 |
15K18490
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
八木 寿梓 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10432494)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アミロイド線維 / 海藻 / 多糖 / 蛋白質異常凝集検出装置 |
研究実績の概要 |
根治的治療方法が開発されていない難治性疾患であるアミロイドーシスは、その発症を予防することが重要であり、多くの視点から研究が行われている。本研究課題は、アミロイドーシスの共通の原因産物であるタンパク質の異常凝集体(アミロイド線維)に着目し、そのアミロイド線維の形成を阻害することによって疾患の発症予防に貢献することを目的としている。その方法として日本に多く生育している海藻(緑藻、褐藻、紅藻)に着目して、海藻が有する化合物等がアミロイド線維形成に及ぼす影響を調べる。 平成27年度は、この計画にもとづいて海藻特有の多糖がアミロイド線維形成に及ぼす効果と、新規の有用化合物の獲得を目指して鳥取県に生育する海藻を採取し、その中からアミロイド線維形成に対して抑制的な効果をもつ海藻のスクリーニングを行った。 得られた成果として、海藻が有する多糖がアミロイド線維形成タンパク質であるインシュリンのアミロイド線維形成に対して抑制効果を有することがわかった。海藻特有の多糖は、同種の多糖でも海藻の種類のよってその構造は異なり、本研究においても同種の多糖を用いても海藻の種類によってその抑制効果が異なることがわかった。海藻の多糖においては生理活性があるものも報告されており、今回得られた成果はさらに多糖の付加価値を高める結果となった。次に、新規の化合物の獲得を目指した海藻抽出液を用いたスクリーニングにおいては、緑藻の一部の抽出成分で少しの抑制効果が見られた。それに対して数種類の褐藻において大きな抑制効果が見られた。これまでのアミロイド線維形成抑制に対する化合物の効果は、植物等からアルコール抽出した脂溶性の成分に含まれ報告されているが、本研究成果は水溶性の成分から抑制効果が得られており、次年度の行う予定の成分同定に期待が高まる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究計画どおり、蛋白質異常凝集検出装置(HANABI)を用いて有用海藻のスクリーニングを行い、複数種の有用海藻の獲得に成功した。しかしながら、有用海藻の獲得が当初の予定より数ヶ月遅れてしまい、海藻から有用成分の分離・同定までを平成27年度中に終えることができなかった。進行は少し遅れているが研究の方向性は当初の計画通り進んでいるため、平成28年度も引き続き行い、目標を達成する。 海藻成分の探索以外に、すでに知られている海藻が有する数種類の多糖に注目し、その多糖がアミロイド線維形成に及ぼす影響も平行して調べている。この多糖を評価するためには様々な分子量のオリゴ糖を調製する必要があり、そのためには多糖を分解する酵素を獲得しなければならなくなった。海洋性細菌の単離、目的多糖分解酵素のクローニング等を含めてこの分解酵素の獲得に時間を要した。当初の計画より実験項目が追加されたことも少し研究計画が遅れた一因だと考えている。しかしながら、得られた酵素が興味深い性質を有していることがわかったので、派生的ではあるが得られた成果に対しては学会発表も行った。平成28年度は、獲得した酵素の用いてオリゴ糖を調製し、その評価を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究計画において、海藻抽出成分の同定までは行うことができなかったが、研究計画にそって概ね順調に研究成果を挙げることができている。従って、平成28年度も引き続き研究計画にそって展開する。具体的には多糖に関しては、予定通り、円二色性分光法や電子顕微鏡を用いた画像解析を行う。海藻成分においては、現在得られている水溶性の抽出成分に関しては成分の分離・同定を行う。脂溶性の抽出成分はまだ検討ができていないので、それに関する知見を得ることも進める。研究計画にも記載しているが、分離・同定を行う場合は、多成分でアミロイド線維形成の抑制効果を示すことも考えられるので慎重に進める。 追加事項として、オリゴ糖の調製に必要な酵素をクローニングしたが、得られた酵素がこれまでに報告されている酵素とは性質が異なる新規性のある酵素であることがわかったため、この酵素の特性に関しても追求していく予定である。追求する理由としては調製したオリゴ糖がアミロイド線維形成の抑制に非常に効果的な結果が得られた場合、将来的に機能性食品や医薬品開発等を見据えたときに必要となるからである。その可能性も視野にいれて研究を遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の計画の一つで、アミロイド線維形成の抑制効果を示す有用成分を海藻から抽出することを挙げていた。これに関しては複数種の有用な海藻の候補が見つかり期待した結果が得られたが、この結果が得られたのが2016年1月後半であり、当初予定していた海藻成分を分析するための数種類のカラムや試薬を購入するために組んだ予算が残り、この計画を次年度に実行するために繰越することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画の変更はないため、繰越した予算は当該計画どおり、海藻成分の分離・同定に必要なカラムや試薬、分析に必要な学内共同機器の機器使用料等に用いる。
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