アルツハイマー病等は国民病の一つとされ、今後十数年で患者数は倍増すると言われている。これら難治性疾患は根治的治療方法が開発されておらず、原因タンパク質は異なるが組織にタンパク質の異常凝集が蓄積する(アミロイド線維)。アミロイド線維が蓄積する疾患を総称してアミロイドーシスと呼び、発症予防の重要性から多くの視点で研究が行われている。本研究課題はアミロイド線維に着目し、そのアミロイド線維の形成を阻害することで疾患の発症予防に貢献することを目的としている。その方法として日本に生育している海藻に着目し、海藻が有する化合物等がアミロイド線維形成に及ぼす影響を調べる。 平成28年度は、当初の計画と平成27年度に得られた成果に基づき海藻特有の多糖が線維形成に及ぼす効果について詳細に調べた。前年度に阻害効果を有することが示唆された海藻特有の多糖の効果を明らかにするため、他の数種類の多糖と比較し検討した。その結果、線維形成阻害効果が明らかであったのは、当初示唆された多糖だけであり、他の多糖には効果がないという興味深い知見が得られた。また、多糖は高分子であるため、低分子化を行い分子量依存的な阻害効果を調べると、最適な分子量の存在も明らかになった。モデルタンパク質であるインシュリンの線維形成に伴う二次構造変化を調べると、阻害効果を有する多糖を添加した場合、インシュリンの構造変化が生じないことがわかった。電子顕微鏡観察においても、典型的なアミロイド線維様の構造は観察されず、不定形な凝集体を形成していた。将来的な医薬品・機能性食品等に開発において非常に有用な多糖であることがわかった。海藻抽出液に関する研究も展開しており、これまでのスクリーニングから褐藻2種まで対象を絞ることに成功し、その成分分析等を進めている。前年度に獲得した有用な酵素については諸性質の検討が終わり、論文として報告した。
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