研究課題/領域番号 |
15K18493
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
島田 敦広 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 助教 (80723874)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | XFEL / 常温測定 / Cytchrome c oxidase / プロトンポンプ / 結晶調温湿装置 / HAG法 / 膜タンパク質 |
研究実績の概要 |
従来のX線結晶構造解析では、X線照射によるタンパク質結晶へのダメージを抑えるために凍結結晶を用いることが一般的であったが、凍結結晶中のタンパク質構造は常温下で実際に機能している構造を反映していない可能性が示唆されている。X線自由電子レーザー(XFEL)は従来のX線の10億倍の強度と約100分の1のパルス幅を持ち、常温下でもタンパク質結晶がダメージを受ける前に回折イメージを得ることが可能であり、また、遷移状態など反応中間体の構造解析にも利用可能である。しかし、XFELを用いて得られたデータの解析方法はいまだ確立されていない。そこで、本研究では、巨大幕タンパク質であるウシ心筋由来チトクロム酸化酵素(CcO)を用いて、XFELによる常温下での高分解能データの収集および得られたデータの解析法の開発を行う。まず、CcO結晶を安定に常温下で維持可能な条件の検討を行った。一般的にタンパク質結晶は非凍結条件では不安定であり、X線回折イメージを収集している間にも格子定数やモザイク性が経時的に変化して結晶性が劣化する。そこで、JASRIの馬場・熊坂両博士の開発した「結晶調温湿システム」を用いてCcO結晶を非凍結条件でビームライン上にて安定に維持可能か検討した。その結果、CcO結晶を水溶性ポリマーであるポリビニルアルコールでコーティングし、湿度99%、温度4℃の気流下で乾燥させることで、1時間以上ビームライン上で安定に維持可能であることがわかった。この条件下で収集したデータから、2.2Å分解能での立体構造解析に成功した。しかし、タンパク質の立体構造に基づいて化学反応メカニズムを詳細に議論するためにはさらなる高分解能データが求められるため、現在、より高分解能データ収集が可能な条件の検討を行っている。同時に、XFEL施設であるSACLAにて凍結結晶及び非凍結結晶を用いて回折イメージの収集を行い、それぞれフルデータセットを得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結晶中のタンパク質の立体構造を決定するために、従来のX線結晶構造解析ではタンパク質結晶を回転させながら回折データを収集して、各指数由来の回折強度を正確に計算し構造因子を求めている。しかし、XFELを用いた結晶構造解析ではフェムト秒レベルの短パルスX線を照射するので、タンパク質結晶を回転させながら回折データを収集することができず、従来の解析方法とは異なるXFEL用の新たなデータ解析方法の開発が必要とされる。27年度の計画では、まずはCcOの凍結結晶を用いて非振動データの収集・解析法の開発を行う予定であったが、非凍結・凍結結晶両方についてデータ収集を行うことができ、予定よりも順調に研究を遂行できている。データ解析方法の開発に関して、回折データをMOSFLMプログラムによって処理し、各指数について回折強度をガウス曲線でフィッティングして各指数の強度をその積分値から直接求めた。各指数強度を、SPring-8で収集したリファレンスのCcOデータの対応する各指数強度と比較し、精度の高いデータを複数の判断基準から取捨選択する方法を試みたが、想定していたほどの高い精度でのデータ処理を達成することができなかった。しかし、Uervirojnangkoornらの開発したプログラムPrime(eLife 2015;4:e05421)を改良することで、高精度でのXFELデータの処理が可能なプログラムの開発に目処が立った。現在、実際にXFELデータの処理を試みているところである。さらに、本来28年度に行う予定であったCcOの常温測定の条件検討も行い、分解能2.2Åで安定に維持可能な条件の決定にも成功した。以上のことから、本来の計画から若干の修正はあったものの、当初の予定通りに研究は進行している。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画は順調に推移しているので、このまま計画通りSACLAでCcO結晶を用いてXFELデータの収集、解析を行う予定である。同時に、常温下でのCcO結晶の安定性をさらに長時間維持可能な条件の検討、及び分解能のさらなる向上を試みる。すでに凍結CcOを用いて休止酸化型構造のフルデータセットを収集済みであるが、真の無損傷構造解析を行うために、従来の1つの結晶から複数の回折イメージを収集するのではなく、1つの結晶に対して最初の1パルスのX線照射によって得られた回折イメージのみを用いて構造解析を可能とする方策の検討を行う。そのためには、SACLAにてさらなるデータ収集を行う必要がある。また、CcOの酸素還元反応メカニズムを明らかにするために、CO、NO、CN-など酸素アナログとの複合体や、電子供与体であるチトクロムcとの複合体についてもSACLAにてデータ収集を行う予定であったが、SACLAのビームタイムが限られており全ての複合体に関してのデータ収集は不可能であることがわかった。そこで、複合体の中でも特に重要度の高いもの、かつ、すでに高分解能データがSPring-8にて収集済みでリファレンスとして利用可能なものに集中してデータ収集を行い、SPring-8で収集したデータとの比較を行うことにする。
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