【研究目的】従来のX線に比べて高輝度かつ極短パルスという特徴を持つX線自由電子レーザー(XFEL)の登場によって、これまでタンパク質のX線結晶構造解析で問題となってきたX線照射によるタンパク質分子への損傷を伴わない(無損傷)データ収集が可能となった。しかし、XFELを用いて得られたデータの解析方法はいまだ確立されていない。そこで、本研究では、巨大幕タンパク質であるウシ心筋由来チトクロム酸化酵素(CcO)を用いて、XFEL照射施設であるSACLAを利用して非凍結条件下での高分解能データの収集および得られたデータの解析法の開発を行うことを目標とした。 【成果】(1)高粘度媒体(ポリビニルアルコール溶液)でコーティングしたタンパク質結晶を温度と湿度のコントロールされた気流下で長時間維持する方法(HAG法)をCcO結晶へ適用した。その結果、CcO結晶を非凍結条件で1時間以上ビームライン上で維持し、SPring-8にて2.0 angstrom分解能でのデータ収集に成功した。(2) HAG法をSACLAでの測定にも適用することで、CcOの反応中間体である還元型CcO及び、疑似反応中間体である一酸化炭素(CO)結合還元型CcOについて2.2 angstrom分解能でデータ収集に成功した。(3)Uervirojnangkoornらの開発したプログラムPrime(eLife 2015;4:e05421)を改良することで、XFELデータの処理を高精度に行うことができた。(4)当初は基質である酸素アナログ(一酸化窒素やシアン化物イオンなど)を用いて疑似的な反応中間体構造を多数決定する予定であったが、CO結合還元型CcOへ励起光を照射することでCcOからCOが解離することを利用して、COの解離過程を経時的に追跡してCcOの短寿命反応中間体構造を決定することに成功した。
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