研究課題/領域番号 |
15K18495
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
鈴木 喜大 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 研究員 (40712659)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | CagA / 天然変性 / 溶液構造 |
研究実績の概要 |
ピロリ菌由来CagAカルボキシル末端の天然変性領域と構造領域の分子内相互作用を介した投げ縄構造の溶液構造解析を行う為、NMRによる溶液構造解析を開始した。まず、投げ縄領域の発現条件を最適化し、安定同位体による標識体の調製条件を最適化した。その後、15N標識体の投げ縄構造全体のNMR解析を行った。その結果、多くの領域が天然変性領域であることが示唆され、これまでのCDやSAXSの解析とよく一致していることを確認した。さらに13C15N二重標識体を作成しNMR解析を行った。分子量が45kDaとNMR解析用のサンプルとしては比較的大きく、また天然変性領域を多く含むため、さらなるNMRシグナルの帰属を進めるため、アミノ酸選択標識などによるデータの解析を試みている。一方、投げ縄領域の分子内相互作用部位は相互作用時にdisorder-to-order転移によりヘリックスバンドルを形成すると予測されている。CDを用いた解析により相互作用部位同士の相互作用に起因する二次構造量の増加が確認できた。この領域の詳細な溶液構造を解析する為、分子内相互作用部位についてのNMR解析も開始した。その結果、分子内相互作用を介して、C末端側の相互作用部位が二次構造を取る様子が確認できた。機能解析に関しては、投げ縄構造およびそのリン酸化体を調製し、標的タンパク質であるSHP2とPAR1との相互作用をプルダウンアッセイにより定性的に解析し、投げ縄構造のみで標的分子と相互作用できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
投げ縄領域の溶液構造解析ではX線小角散乱実験は放射線損傷があるためデータの取得に至っていないが、すでにNMRの解析に着手している。さらに分子内相互作用部位についても順調にデータの取得や解析を進めてきていて、C末端の天然変性領域のdisorder-to-order転移をCD解析なども含めて複数の手法での確認に成功している。一方、機能解析に必要なリン酸化体も不必要なリン酸化部位に変異を導入することで効率的に均一に調製することに成功している。そして、標的分子との定性的な相互作用解析も行っており、今後、計画通りにSPRを用いた定量的な相互作用解析を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
投げ縄領域のX線小角散乱法による溶液構造解析ではこれまでの放射線損傷が解決できていないため、最近高エネルギー加速器研究機構のPhoton Factoryに導入されたSEC-SAXSを用いた解析を試みる。NMRによる解析ではアミノ酸選択標識や重水を用いてシグナルの帰属を進めていく。さらに分子内相互作用部位については重水を用いて構造解析を進めて行き、同時に結晶構造解析も行っていく。すでに低分解能の結晶は作成できており、結晶化条件の最適化を行うことで解析可能な結晶を作製する。機能解析に関しては投げ縄構造を用いた相互作用解析を開始しており、このまま計画通りにSPRを用いた定量的な相互作用解析を行い、また投げ縄構造を阻害した変異体についても同様の解析を行い、投げ縄構造形成の生物学的な意義について解明していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
NMR解析における投げ縄構造のシグナルの帰属が難航しており、重水を用いた実験を開始できていないため、重水を含む安定同位体標識体調製用の試薬購入代の一部が執行されていないため。
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次年度使用額の使用計画 |
分子内相互作用部位のNMR解析が順調に進んでいて、サンプルの状況に応じて重水を含む安定同位体を用いた解析を開始することになり、次年度に持ち越した分はすぐにその試薬購入代として執行する予定でいる。
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