神経筋接合部(NMJ)は、運動神経と骨格筋の筋線維(筋管)を結ぶ個体の運動制御に必須のシナプスである。その形成には筋管に存在する受容体型チロシンキナーゼMuSKと、その活性化により惹起される「NMJ形成シグナル」の駆動が重要である。「NMJ形成シグナル」はNMJ異常に起因する先天性筋無力症候群に加え、筋萎縮性側索硬化症や加齢性筋萎縮等において観察される、NMJ形成不全の理解・治療法確立において重要な位置づけにある。本研究に置いては、NMJ関連分子の探索を実施し、未だブラックボックスである「NMJ形成シグナル」の包括的理解の端緒を開くことを目的としている。 平成29年度は、平成28年度に単離したNMJ形成シグナル亢進活性を示す酵素Yに対する複数の阻害剤に着目し、酵素YがNMJ形成シグナルに関与する可能性について、マウスにおける発現抑制の実験系を用いて検討した。その結果、酵素Yのマウス骨格筋における発現抑制によるNMJ形態、運動機能の変化は観察されなかった。この結果から、酵素Yの関与の検討には発現抑制が十分ではない、あるいは上述の阻害剤が酵素Y以外の未知の標的を制御してNMJ形成シグナルに関与した可能性が示唆された。今後は、CLSPR-CASを利用した遺伝子欠損の系による検討を実施するとともに、結合分子の探索等による標的分子の同定を進める予定である。また、本スクリーニングで単離された、その他の候補物質の検証と機能解明を実施する。加えて、NMJ形成シグナルに関与する遺伝子の探索も引き続き実施する予定である。
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