これまでに、インスリン応答性細胞であるHeLa細胞に野生型GLUT4を発現させ、動態解析を行う系を確立した。糖鎖プロセシング酵素阻害剤処理により糖鎖構造を変化させたGLUT4はインスリン応答性を失ったことから、N型糖鎖の特定の構造がGLUT4の選別輸送に関わっている可能性が示唆されている。また、GLUT4にはN型糖鎖が1ヶ所しか結合しないにも関わらず、PNGase FでN型糖鎖を脱離した場合や、N57Q変異体と比較して、相対的な分子量が20 kDa程も違い、ウエスタンブロッティングにおけるバンドの幅も広い。そこで免疫沈降で精製したGLUT4タンパク質のSDS-PAGEを行い、バンドを上下に切り出してゲル内消化を行った。得られたトリプシン消化物はLTQ-Orbitrap-Velos質量分析計(Themo Scientific社)にて分析を行った。その後取得した質量分析データをExpressionistプロテオームデータベースサーバー(Genedata社)に転送し、必要なデータ処理後に検出された糖鎖構造を比較した。高分子量側のバンドからは予想通り、高分岐の複雑な構造が検出された一方で、低分子量側のバンドからは主にハイマンノース型の糖鎖構造が検出された。 さらに免疫沈降で精製したGLUT4を、質量分析に使用可能な界面活性剤を用いて溶出し、トリプシン消化を行って糖ペプチドを濃縮した。得られた糖ペプチドに対して特定の糖鎖付加部位に結合した糖鎖バリエーションを一斉定量できる質量分析技術Energy Resolved Oxonium Ion Monitoring Technology (Erexim)法を用い、GLUT4のN型糖鎖構造の相対定量解析を行った。その結果、73構造ものN型糖鎖が同定され、シアル酸、フコースを含む高分岐糖鎖が多く含まれることが明らかになった。
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