昨年度までの研究で、生物時計などの生化学振動子において、周期の頑健性と位相の可塑性の互恵的関係が成立することを示した。また、頑健性と可塑性の間には、線形関係が成り立つことを示した。さらに、同様の互恵的関係が、反応拡散系によるパタンの波数の頑健性と空間における位相の可塑性の間にも成り立つことを明らかにした。これは、頑健性と可塑性の互恵的関係が、研究プロジェクトの当初予想されたように生物時計においてのみ成立するものではなく、より広範な生命現象において成立することを示唆する。また、頑健性と可塑性の互恵的関係に関して、インコヒーレントフィードフォワードというネットワークモチーフを介した環境適応が重要であることを示唆する結果が得られた。 ただ、生物の環境適応は必ずしも単純なネットワークモチーフに還元ない。例えば、生物のホメオスタシスでは多数の構成要素の複雑なダイナミクスの結果として、マクロな環境適応が起こる。そこで本年度は、多数の構成要素からなる適応現象においても、頑健性と過疎性の互恵的関係が成り立つかどうかを検証した。まず、多数の遺伝子からなる遺伝子発現ネットワークを用意し、計算機内進化のアプローチによって、その一部が環境変動に対して頑健になるように進化させた。その結果、ターゲットの遺伝子が環境変動に対して頑健となると同時に、ターゲット以外の遺伝子が環境変動に対して可塑的になった。また、頑健性と可塑性の間に、時空間パタンと同様の、線形関係があることが明らかになった。これらの結果は論文投稿予定である。 さらに、生体内シグナル伝達系のモデルでdynamics robustnessという軌道の頑健性が成立することを示した。さらに、代謝ネットワークにおける頑健性についても研究をおこなった。これらの結果は、PLoS Computational Biology誌に複数の論文として発表した。
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