研究課題/領域番号 |
15K18513
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
須河 光弘 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (80626383)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ダイニン / 微小管 / 集団運動 / 分子摩擦 / 少数性 |
研究実績の概要 |
細胞質ダイニンを複数結合させたビーズが微小管上を移動する様子をxyzの3次元で観察したところ、ビーズは、進行方向と垂直な短軸方向では、ときに微小管を一周するほどゆらいでいることを発見した。このダイニンの集団運動に特徴的なゆらぎの分子メカニズムやその生物学的意義は不明である。そこで、集団運動のゆらぎの構造を解析することでこの運動を特徴付けるモデルを構築し、細胞内小胞輸送の運動解析への応用を目指して、組換え細胞質ダイニンを用いた研究を行った。 ダイニンの集団運動において瞬間速度分布は正規分布よりも指数分布で良く近似できたことから、運動に対して加算ノイズに加えて乗算ノイズが効いていることが示唆された。短軸方向の運動の平均二乗変位は、15℃で秒以下の時間スケールではsubdiffusionを、また15℃以上で秒以上の時間スケールではsuperdiffusionを示した。秒以下の時間スケールで見られたsubdiffusionはダイニンと微小管との相互作用による分子摩擦を、秒以上の時間スケールで見られたsuperdiffusionは運動方向のバイアスを意味する。ダイニンの集団運動における乗算ノイズは分子摩擦の変動に由来すると考えられる。この分子摩擦の変動は少数集団の数ゆらぎにより生じたと考えている。さらに、分子モーターの集団運動を模したモンテカルロシミュレーションから、モーター分子の配置により立体障害が起こり、左右のバイアスが生じ得ることが確認できた。また、少数性の数ゆらぎにより速度分布が指数型になることも再現された。以上の結果から、実験において観察されたダイニンの集団運動のゆらぎは、集団の少数性による数ゆらぎに由来する分子摩擦の変動が運動に対して乗算ノイズとなり、そしてビーズ上のダイニンの配置によって左右方向へ運動がバイアスされたことで説明できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
xyzの3次元で観察した細胞質ダイニンの集団運動における短軸方向の運動ゆらぎの時系列解析から、ダイニンと微小管との結合解離による分子摩擦の変動が集団運動に対して乗算ノイズとなり、分子摩擦のゆらぎは少数性の数ゆらぎにより生じたことを見出した。さらに、ダイニンの集団運動を模したモンテカルロシミュレーションからビーズ上に結合したダイニンの配置によって左または右のバイアスが生じることが分かった。これらの結果から、ダイニンの集団運動を特徴付けるゆらぎの構造が明らかとなってきた。
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今後の研究の推進方策 |
細胞質ダイニンの集団運動において、少数性による数ゆらぎを原因とした分子摩擦の変動と分子配置による左右へのバイアスが明らかとなった。しかし、モンテカルロシミュレーションにおいて、モーター分子集団の配向がレールの進行方向に対して常に一定である場合にのみ、左または右のバイアスが生じた。力のモーメントにより集団の配向が回転する場合には左または右のバイアスが消えた。実験ではダイニン集団の配向を計測できていないため、実際にダイニン集団の配向が微小管の長軸に対して固定した上で運動しているのか不明である。そこで、DNA origamiを用いた実験系によりこの点について実証していく。また、本研究で行ってきた運動のゆらぎの解析をキネシンへ適用していくことを計画している。
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