研究課題
生体高分子はピコ秒から実時間スケールにまでに及ぶ広い時間領域にわたり階層的なダイナミクスが存在することが知られており、特に近年ではそのダイナミクスこそが生体高分子の機能発現を誘発する主要因として考えられている。しかしながら、その中において特にナノ秒からサブマイクロ秒の時間領域に存在する内部運動を精度良く観測出来る生物物理学的実験手法は未だ確立しておらず、新規手法の確立が強く望まれている。そこで、本研究においてタンパク質の内部運動を実測を中性子スピンエコー法 (NSE) 法により試み、更に解析法が十分に確立していないNSE測定から実測データの解釈のために分子動力学計算 (MD-simulation)を行うことで あらゆるタンパク質の内部運動の記述を可能にするMD-NSE法の開発を目指している。平成27年度においては制限分解酵素EcoO109IのMD-simulationをGromacsを用いて全原子計算をおこなった。なお、初期構造として既に報告されている結晶構造を用いた。得られた計算結果の妥当性を確認するためにMD-simulationから得られた構造を元に小角散乱領域における静的構造を計算したところ小角X線散乱測定 (SAXS) から得られた散乱関数を非常に良く再現した。更に、MD-simulationから得られたトラジェクトリーを元にNSE測定で実際に得られる中間散乱関数を計算した。更にその得られた中間散乱関数から緩和速度の空間依存性を見積もったところ、並進、回転拡散から予測されるよりも余剰分の緩和速度が見積もられた。この結果はEcoO109Iの内部運動を反映したものと考えら、現在主成分解析 (PCA)を行い支配的な内部運動のモードの抽出を行っている。
3: やや遅れている
MD-NSE法の最初の候補となるEcoO109IのNSE測定は当初平成27年度にビームタイムが確定していた。しかしながら、使用する予定の中NSEのアップグレード及び調整の大幅な遅延により当初予定されていたビームタイムが延期されて平成28年度7月にへとシフトされた。そのため、MD-ダイナミクス測定を研究を進めるための礎となる実験データ側のダイナミクスが欠落している状況である。
既にEcoO109Iに対して予想される中間散乱関数はMD-simulationにより計算済みであるので、本年度実施予定のNSE測定に対して最適な測定条件を設定済みである。また、本年度実施する天然変性蛋白質のダイナミクス測定の礎となる構造をSAXSにより決定し、その構造からMD-simulationを行う。最終的に本手法の構造が不明確な蛋白質のダイナミクスの記述法を目指す。
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