膜輸送タンパク質には、疾患に関わり創薬のターゲットとなるものが数多く存在するが、その分子構造や動作機構が明らかにされたものは限られている。本研究では、高速AFMで膜輸送タンパク質1分子の構造ダイナミクスを詳細に可視化するためのAFM技術開発と、その機能過程を明らかにするためのイメージングを通して、膜輸送タンパク質の1分子レベルでの動作過程を可視化し、機能メカニズムを明らかにする事を目指した。今年度は、前年度開発した高速AFMスキャナーを更に発展させ、走査範囲を分担した新しい構造のスキャナーを考案した。広域走査は伸びの大きな駆動機構にし、一方で狭域は伸びが小さく高周波駆動可能な機構を採用する事により、ターゲットとする膜輸送タンパク質1分子を従来よりも高解像度かつ高速で撮影可能なスキャナーの開発を行った(特許出願)。また、生体分子の機能過程の観察にはその環境が重要となる。特に温度は生体分子の反応速度や相互作用に重要な要素である事から、観察環境の温度制御機構の開発に取り組んだ。透明導電膜付ガラスに電極を取り付け、絶縁断熱ホルダーで囲った高速AFM溶液チャンバーを作成した。これを用いて、高速AFMで2種混合脂質膜を観察中に電極間に電圧を印加した結果、片方の脂質の相転移温度付近で脂質ドメイン構造が融解する過程の観察に成功し、サンプルの温度を正確に制御可能である事を示した。さらに膜輸送タンパク質のダイナミクス観察として、脂質膜へ再構成した電位依存性プロトンチャネル(VSOP)を高速AFMで観察した結果、直径約20nmのリング構造の分子が、観察中に2つに分離する過程が撮影された。VSOPは2量体を形成し、協調してチャネル開閉を制御していると考えられてきたが、構造的知見は限られていた。今回の結果はVSOPが機能ユニットとして、脂質膜中で2量体を形成している事を示唆していると考えられる。
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