研究課題
申請者が発見した高度好熱菌由来の光受容膜タンパク質・サーモフィリックロドプシン(TR)について,高い熱安定性を生み出す構造的要因を明らかにすること,さまざまな物理的・化学的刺激に対する構造安定性を定量的に評価することを目的に,本研究を実施している。本研究で得られた知見をもとに,他の膜タンパク質への適用も可能な構造安定化法の確立や,TRの高い安定性を利用した計測や材料応用への展開を目指している。平成28年度には,さまざまな化学的刺激(界面活性剤、変性剤、有機溶媒)に対する、TRの構造安定性を網羅的に評価した。本研究では,界面活性剤として強力な界面活性作用をもつSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、変性剤としてレチナールの脱離を引き起こすヒドロキシルアミン、有機溶媒としてエタノールをもちいた。それぞれの化学的な刺激に対して、TRを含む5種類の微生物型ロドプシンがどれくらいの時間、活性を保っていられるかを紫外可視吸収分光法をもちいて調査した。得られた結果を定量的に解析したところ、TRはいずれの化学的刺激に対しても、他と比べて高い安定性を示すことがわかった。特に、熱に対する安定性とSDSに対する安定性の間に良い相関が見られたことから、両刺激に対する安定性は同じメカニズムで保証されていると結論した。本研究成果は、現在、欧文誌に投稿中である。さらに、TRと同等かそれ以上の熱安定性をもつロドプシンの探索を行い、TRよりも約16倍も安定な分子(Rubrobacter xylanophilusロドプシン、RxR)を発見した(Kanehara et al.(2017) Sci. Rep. 7, 44427、その他新聞報道あり)。TRとあわせて、ロドプシン分子の熱安定性獲得のメカニズムの解明および、TRやRxRをパートナー分子として利用したタンパク質安定化技術などへの応用が期待される。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の研究実施計画では,さまざまな物理的・化学的刺激に対するTRの構造安定性の評価を実施した。その結果、熱安定性と界面活性剤SDSに対する安定性に相関関係を見出した。このことから、両刺激に対するTRの安定性は、分子内部の疎水性残基が作る強固な疎水性相互作用によって実現されていると結論した。さらに、TRよりも熱安定性の高いロドプシンを発見し、その分子物性を明らかにすることができた。平成27年度の計画で予定していた、TRと他のロドプシンとのキメラタンパク質の調製にも着手した。
平成27・28年度の研究実施計画で得られた成果をもとに、今後は熱安定性に寄与すると予想される構造領域を他のタンパク質に導入することで、熱安定性を高めることができるかどうかを検証することが求められる。加えて、熱に安定なTRが、好熱菌の中でどのように成熟していくのかを検証し、生物学的な観点でTRの安定性獲得のメカニズムについて検証したい。今後の研究にもつながっていくよう、挑戦的な内容にも取り組んでいきたい。
機器の故障等の事案が発生せず、消耗品の追加購入等の必要性が少なかったことから、次年度への繰越金が生じた。
本研究の進捗状況から、今後の研究の発展を見越した挑戦的な内容を実施したい計画である。そのために使用する細胞培養器等(総額100万円未満)を購入する計画である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) 備考 (4件)
Scientific Reports
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