イオンチャネル共役型グルタミン酸受容体(iGluR)はグルタミン酸結合を介してイオンチャンネルの開閉を制御しており、中枢神経系における記憶や学習等の脳の高次機能に重要な役割を果たしている。グルタミン酸結合・非結合のX線結晶構造が解かれており、グルタミン酸の結合にともなう受容体タンパク質の大きなドメイン運動が示唆されている。今年度の研究では、昨年度に実行したMulti-Scale Enhanced Sampling (MSES)法を用いた全原子構造探索により得られた構造アンサンブルの解析、およびアゴニスト・アンタゴニスト複合体の分子動力学シミュレーションの追加計算により、iGluRのリガンド結合過程の全容を明らかにした。 MSES法により得られた構造アンサンブルから、iGluRの結合構造からのRMSDおよびグルタミン酸との原子コンタクト数に沿った2次元自由エネルギー面自由エネルギーランドスケープを計算した結果、複合体構造近傍だけではなく広範な構造サンプリングがMSES法により実現されたこと、また、グルタミン酸の結合解離とiGluRのドメイン運動が相関することを示した。また、グルタミン酸の結合にともない、cleft構造の開閉が起きたのちに、脱水和しつつグルタミン酸とタンパク質側鎖間の原子相互作用が完成するといったイベントを原子解像度で構造探索することができた。さらに、カイニン酸、DNQX、AMPAのアゴニスト・アンタゴニストの複合体構造の平衡シミュレーションを行い、リガンドがiGluRの活性を制御する分子機構を明らかにした。
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