ATP (アデノシン三リン酸) はあらゆる生体反応に関与する重要なエネルギー通貨であるにも関わらず、その濃度の時空間動態及びその調節機構はほとんどわかっていない。申請者は既存のATPセンサーの問題点を解決する単一GFPの蛍光変化を利用した新規ATPセンサー“QUEEN”の開発に成功し、大腸菌一細胞内でのATP濃度の定量計測に成功した。本研究ではこの技術を哺乳類細胞に応用し、代謝状態への摂動の応答を時間的空間的に定量計測することで、生命機能のエネルギー基盤であるATPの時間的空間的調節システムのアッセイ系を確立し、これを利用して分子的実態の検索を行う。 申請者はまず哺乳類での使用に適した改良型QUEEN開発を行った。その結果、37度において生理的なATP濃度で大きなシグナル変化を示すような、動物細胞における測定に適したQUEENを新たに二種類作成することができた。この改良型QUEENをMDCK細胞において発現させ、共焦点顕微鏡でイメージングを行った。さらに、QUEENのシグナルをATP絶対濃度に変換するには測定環境に対応する検量線を書く必要があるが、顕微鏡上でQUEEN発現細胞の細胞膜に穴を開けてATP濃度を変化させることで検量線を書くことが可能になった。これを用いてMDCK細胞における細胞内ATP濃度を求めた結果、これらの細胞では大腸菌と比べてATP濃度の細胞間のばらつきがかなり小さいことが示唆された。 さらに、QUEENを細胞内の特定の部位に局在させ、局所的なATPを測定する実験も行った。核やミトコンドリア外膜、アクチン繊維の周辺など様々な部位に局在させることができた。
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