研究実績の概要 |
ミトコンドリア (Mt)は細胞の生存に必須なエネルギー生産を担うオルガネラであり、新規に生成されないため、細胞系列の維持には娘細胞がMtを適切に継承する必要がある。またMtの機能低下は代謝・神経疾患や老化の原因となる。分裂酵母の胞子形成時には、母細胞から新生胞子へ確実にMtが分配されるが、その分子機構は不明である。申請者はこれまでに胞子形成関連因子npg1遺伝子破壊株では胞子へのMt分配が異常になることを発見した。本研究では胞子形成におけるMtの分配機構および品質管理機構の解明に迫る。平成29年度に実施した研究の成果は以下の通りである: (1)分裂酵母細胞内ATP濃度の可視化 分裂酵母細胞内のエネルギー状態を一細胞レベルで解析するために、ATPバイオセンサーQUEEN (Yaginuma et al., 2014)を発現する株を作製した。ATP産生の阻害剤を使用した実験から、QUEENのシグナルは細胞内ATP濃度変化を正しく反映できることが確認された。以上により分裂酵母細胞内のATPレベルを様々な状態 (栄養増殖期、減数分裂期、胞子形成期)で経時的に解析することが可能になった。 (2)減数分裂期にオーロラキナーゼB Ark1と協調して発現制御される因子の探索 減数分裂期における遺伝子発現のマイクロアレイ解析 (Mata et al., 2007)のデータを利用してArk1と類似した発現変動を示す遺伝子を探索した結果、Npg1, Pic1 (動原体タンパク質), Bir1 (サーバイビン), Psy1 (シンタキシン )が同定された。これらの因子の内、Pic1とBir1はArk1やNpg1と同様に核内あるいは染色体上に局在するタンパク質である。従って、これらの結果はArk1がNpg1のみならず、Pic1やBir1とも共同して減数分裂や胞子形成に関与する可能性を示唆している。
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