研究課題/領域番号 |
15K18533
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
豊田 雄介 久留米大学, 分子生命科学研究所, 助教 (10587653)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | グルコース / グルコース輸送体 / シグナル伝達 / 細胞内局在 |
研究実績の概要 |
本研究は、エネルギー源・炭素源として重要なグルコースを細胞内に取り込むグルコース輸送体の発現・細胞内局在を制御する進化上普遍的な分子機構の解明を目指す。研究室では2-3%グルコースを含む培養液で培養する分裂酵母がグルコース欠乏(0.08%)環境で増殖するためにはグルコース輸送体Ght5が必要十分であった。本年度は、先行研究により見出されていたグルコース欠乏環境で増殖できない分裂酵母LGS変異体細胞内で、Ght5-GFPの細胞内局在を観察した(LGS=Low Glucose Sensitive)。野生型細胞では、グルコース欠乏環境ではGht5の発現が亢進し細胞表面により強く局在するようになる。本研究では51遺伝子に変異を有する70個のLGS変異体を用いて高グルコース(2-3%)環境、グルコース欠乏環境におけるGht5-GFPの細胞内局在を観察した。この結果、51遺伝子のうち25遺伝子がGht5-GFPの細胞表面局在に必要であった。これらの25遺伝子は、タンパク質リン酸化、細胞骨格、小胞輸送、タンパク質分解に関与していた。例えば小胞輸送に機能するアダプタータンパク質の変異体ではGht5-GFPタンパク質は、グルコース欠乏環境においてのみ正常に細胞表面に局在せず、細胞質中で塊として観察された。このようなGht5の局在異常は、変異体細胞のグルコース欠乏環境での増殖欠損を説明できるものと考えられる。次年度以降は、本研究の成果を元に、Ght5タンパク質の細胞表面局在に必要なプロセスの調節を明らかにすることによって、グルコース欠乏環境における細胞の生存戦略を明らかにしていく。さらに、分裂酵母での結果を手がかりに、ヒトのグルコース輸送体においても細胞内局在の調節機構を探索する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では分裂酵母およびヒト細胞を用いて、グルコース欠乏環境でのグルコース輸送体Ght5の細胞膜局在を制御する分子機構を解明するものです。初年度に当たる27年度は、分裂酵母Ght5の細胞内局在に影響を与えるLGS変異体の探索を中心に実施しました(LGS = Low Glucose Sensitive, 0.08%以下グルコースで増殖できない変異体)。本年度の解析によって、Ght5がグルコース欠乏環境において細胞表面に発現するために必要な主要なプロセスが明らかとなり、次年度以降の研究計画を予定通り実施できる状況にあると考えています。
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今後の研究の推進方策 |
本課題の目的である、グルコース輸送体Ght5の細胞膜局在を制御する分子機構の解明に向けて研究を進める。具体的には、グルコース欠乏環境における分裂酵母Ght5の蛋白質相互作用および翻訳後修飾を、アフィニティー精製、質量分析によって見出すことで、分子レベルの仮説(例えば、「キナーゼXによるGht5のリン酸化がGht5の細胞表面局在に必要」等)を生成する。そして、以上の分裂酵母で得られる結果を元に、グルコース欠乏環境で発現を亢進するヒトグルコース輸送体をヒト培養細胞を用いて同定し、その蛋白質についてもグルコース欠乏環境における蛋白質相互作用、翻訳後修飾を同定する。以上の解析により進化上保存されたグルコース輸送体の局在調節機構の解明にせまる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定では27年度(初年度)に分裂酵母だけでなくヒト培養細胞を用いた実験も実施する予定でしたが、培養や観察に比較的コストのかからない分裂酵母を用いた研究に注力しました。その結果、予定額よりも少ない支出となりました。
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次年度使用額の使用計画 |
今後、研究計画通り、分裂酵母だけでなくヒト培養細胞を用いた実験、特にアフィニティー精製および質量分析を実施する予定です。生じた次年度使用額は、これら実験の試薬類や解析依頼費用に支出する予定です。
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