組織を区画化することは多細胞生物の発生に共通の原理である。発生過程において、細胞の自由な混ざり合いがコンパートメントに制限されることがある。コンパートメント境界を維持するための細胞間のシグナル伝達、物理的特性、細胞動態などが次々と明らかにされてきている一方で、細胞の混ざり合いを防ぐ実行因子は同定されておらず、細胞間の接触面における局所的な相互作用を制御するメカニズムの理解までは至っていない。本研究では、この実行因子を同定し、境界の維持という組織構築の基本プロセスの根幹に迫ることを目指した。 RNA-seqによるトランスクリプトーム解析を行い、ショウジョウバエ上皮で見られるコンパートメント境界の維持を担う実行因子の候補遺伝子として、哺乳類の免疫細胞において非自己分子の認識に重要な働きを持つTLRファミリーに属する4つの遺伝子を同定した。詳細な発現パターンの解析をヒントに、同定した因子の発現量の差異によって境界が維持されるという仮説を立て、境界の維持における細胞生物学的な解析を進めた。定量的ライブイメージング観察技術により、変異体のダイナミクスを一細胞レベルで解析することで、同定した遺伝子が乱れた境界を短時間で元に戻す仕組みを明らかにした。また、先行研究において、コンパートメント境界の維持にはMyosin IIの細胞内局在の制御が重要であることが示されていたが、今回同定した遺伝子はMyosin IIの局在制御とは独立のメカニズムによって境界の維持に寄与していることが示唆された。以上から、本研究によって境界維持の実行因子を初めて同定することができたとともに、コンパートメント境界の維持に関わる新たな分子メカニズムの存在を明らかにすることができた。
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