研究課題/領域番号 |
15K18545
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
畑中 勇輝 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソースセンター, 特別研究員 (70719450)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 受精卵 / ES細胞 / DNA脱メチル化 / 5mCの酸化 / エピジェネティックリプログラミング / エピゲノム |
研究実績の概要 |
受精卵において能動的DNA脱メチル化は,その過程としてDNAメチル化の指標となる5-メチルシトシン (5mC)の酸化により5hmCへと変換されることが知られている。本研究計画で解析しているGSE及びMettl23とヒストン修飾H3R17me2aはこの5mCの酸化機構に重要である母性因子として我々が同定し,その成果については現在査読中である。これら因子はES細胞でも発現が認められていることから,GSE及びMettl23は多能性細胞においても5mCの酸化に関与している可能性を考え,本研究計画を構築した。 平成27年度は当初の予定通り,多能性細胞として最も品質が高いとされるマウスES細胞におけるGSE,Mettl23,及びH3R17me2a抗体を用いたクロマチン免疫沈降 (ChIP)解析を行い,これらDNA脱メチル化制御因子がどの遺伝子領域に蓄積しているかを調べることにした。まず,次世代シーケンサーを用いたChIP-seq解析の前に,受精卵においてDNA脱メチル化される領域として知られるOct4,Nanog,及びDnmt3b領域におけるChIP解析を行い,定量PCR (qPCR)解析によりGSE,Mettl23及びDnmt3bの蓄積量を調べた。その結果,いずれの領域でも蓄積していることが示された。次に,GSEとMettl23をノックアウト(KO)したES細胞を樹立し,上記領域における5mC及び5hmC抗体を用いたChIP (MeDIP及びhMeDIP) 解析を行った。その結果,野生型と比較して各KOES細胞では,予想通り5mCの量が有意に増加していたが,驚いたことに5mCの酸化産物である5hmCの量も増加していることが明らかとなった。 本研究結果は,ES細胞における能動的DNA脱メチル化機構は受精卵と異なることを示唆するものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では,次世代シーケンサー解析によりGSE,Mettl23,及びH3R17me2aの蓄積をゲノムワイドに調べることで,制御領域を同定し多能性細胞におけるDNA脱メチル化機構の解明及び,これら因子が制御遺伝子の発現に及ぼす影響を調べることが当該年度の目標であった。しかし,GSEやMettl23のKOES細胞の解析結果により,5mCと5hmCの蓄積量が共に有意に増加していることが明らかとなった。この結果は,5hmCへの変換を促進するというGSEとMettl23の受精卵における機能とは異なる結果となった。このことから、次世代シーケンサーを用いた解析を行う前に,5hmCの酸化産物である5fC及び5CaCの蓄積量をChIP解析により野生型とGSE及びMettl23KOしたES細胞で比較することで,KOES細胞におけるさらに詳細なDNA脱メチル化状態の評価を行うこととした。その結果,野生型ES細胞と比較して各KOES細胞では,どのメチル化産物も有意に増加していることが明らかになった。その原因は不明だが,ウェスタンブロット解析により,GSE及びMettl23が蓄積していた領域であるDnmt3bやOct4のタンパク質量を調べた結果,KOES細胞でそれらタンパク質量が減少していることが明らかになった。研究計画であるゲノムワイドな解析は今後行う予定であるが,本来の目的の一つである多能性細胞におけるDNA脱メチル化機構の解明を果たすために,少なくともGSE及びMettl23KOES細胞を用いた解析は,ES細胞におけるDNA脱メチル化機構を解明する重要なモデル細胞として大変有用であり,今後の研究計画においても使用する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では平成28年度で,iPS細胞の誘導時にGSEとMettl23を過剰発現させることでその誘導効率を従来の方法で誘導したiPS細胞と比較する予定であった。 この実験でiPS細胞の誘導効率が改善されることが望ましいが,それが認められないことも十分予想される。そこで,GSEとMettl23を過剰発現させたiPS細胞誘導時に,これら制御領域の遺伝子発現プロファイル及びエピジェネティック修飾の変化を調べることで,確実な成果の獲得を期待できる。そのために,多能性細胞として最も高品質なマウスES細胞を用いたGSE及びMettl23の制御領域の同定とDNA脱メチル化機構の解明は必須である。しかし前年度の成果から,GSEとMettl23の欠失はES細胞において5mCの蓄積量の増加だけでなく全ての酸化産物が増加するという予想外の結果となった。このことから,非メチル化領域が減少していることが予想されるが,GSEとMettl23が果たす役割とそのDNA脱メチル化機構の詳細は不明である。 そこで本年度の研究計画としては,ES細胞におけるGSEとMettl23の機能を詳細に調べるために,これら抗体を用いた免疫沈降解析を実施しその沈降物を質量分析によりタンパク質を同定することで,ES細胞におけるGSEとMettl23の相互作用因子の網羅的な同定をおこなう。相互作用因子を明らかにし,そのタンパク質のES細胞における既知な機能を組み合わせて考えることで,DNA脱メチル化機構の解明に重要な知見を得る。また,GSEとMettl23が制御する領域を同定するために,野生型及び各KOES細胞を用いた次世代シーケンサーによるゲノムワイドな解析も同時に行う。これら実験結果から,多能性細胞におけるDNA脱メチル化機構の解明とその意義を明らかにできると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては,物品費において,初期胚を得るためのマウス使用数を抑えることができたことがあげられる。初期胚を獲得するためにはマウスに過剰排卵処理を施すが,排卵数は個体差が生じる。そのため,マウス使用数は平均排卵数から算出するが実際の排卵数によりその数は変動する。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続きマウスの卵を使用し実験をおこなうことから,排卵数の予想が難しいマウスの購入に前年度の残額を当てる計画である。
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