本研究の目的は、卵母細胞に豊富に存在する母性効果因子を用いて、分化全能性を有した幹細胞へのリプログラミングおよびその獲得メカニズムについて解明することである。最終年度では、初年度に作製した22種類の母性効果因子を発現するレンチウイルスを用いて、山中4因子とともにマウス胚性繊維芽細胞(MEF細胞)へ一つずつ発現させ、iPS細胞へのリプログラミング効率の変化および生じたiPS細胞の状態の違いについて解析した。その結果、Glis1の他にBnc1を始めとするいくつかの母性効果因子がリプログラミングの効率を上昇させることを同定した。また、Glis1やBnc1などを用いて生じたiPS細胞では全能性の遺伝子マーカーとなりうる胚2細胞期に特異的に発現する遺伝子群(Zscan4など)の発現レベルが有意に上昇しており、山中4因子のみによって生じたiPS細胞との状態の違いを確認した。 次に、これらのiPS細胞が分化全能性を持つかどうか解析するため、全身にEGFPを発現するCAG-EGFPトランスジェニックマウスから採取したMEF細胞から、上記の母性効果因子を用いてiPS細胞を作製した。これらの細胞を野生型マウスから採取した初期胚の8細胞期において混合させた後、胎盤胞(blastocyst)まで成長させた。このとき通常のiPS細胞では寄与しない胎盤胞の周辺に位置する栄養外胚葉(trophectoderm)に寄与しているかどうかGFPの発光を用いて観察したところ、部分的に寄与している可能性のあることが判明した。現在このような胎盤胞を仮親マウスの子宮へ移植し、キメラマウスの胎児および胎盤におけるGFPの発光を検出することで、より明確に全能性を獲得したiPS細胞の同定を行っている。今後、どのような遺伝子発現が胎盤胞における栄養外胚葉への寄与を可能にしているか解析する予定である。
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