研究課題/領域番号 |
15K18549
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設) |
研究代表者 |
川出 健介 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンター, 特任准教授 (90612086)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 葉の発生 / 細胞間シグナル / 拡散 / 発現勾配 / FRAP |
研究実績の概要 |
本年度は、葉原基におけるタンパク質拡散動態を定量的に記述するため、細胞および組織レベルといった異なるスケールでのFluorescence recovery after photobleaching (FRAP) 解析を行った。使用した植物体は、Green fluorescence protein (GFP) を構成的に発現するシロイヌナズナ系統である。まず、隣接する細胞間でのGFPの移動性を調べたところ、原形質連絡を介した細胞間の移動が純粋な拡散で定義できることが分かった。さらに、この拡散は葉原基の位置に依存せず、先端部と基部で同様の拡散性を示すことを明らかにした。しかし、興味深いことに、組織レベルでのGFPの移動性を調べたところ、葉原基の基部端では、他の部位よりも移動性が低いことが分かった。詳細な細胞形態観察から、先端部-基部軸に沿った細胞増殖活性の勾配が偏った細胞サイズの分布をうみだし、結果として、組織レベルでのGFPの移動性が非一様になっているという強い示唆を得た。これを検証するため、細胞レベルでのGFPの拡散性を基礎に数理モデルを構築し、組織レベルでのGFPの移動性の再現を試みた。その結果、組織レベルでのGFPの移動性は細胞レベルでのGFPの拡散現象で説明できること、および、細胞サイズの偏った分布で組織レベルでのGFPの移動性の非一様性を十分に説明できることの二点が明らかになった。 以上から、(1)葉原基におけるタンパク質拡散動態の集中的な定量から、拡散動態の非一様性という現象を実証すること、(2)タンパク質拡散動態の非一様性と関連のある葉原基の‘場’の性質を明らかにすることという目的を達成することができた。この成果は、発生途上の原基内において、タンパク質拡散動態が均一だと仮定する従来の研究に対して、これからは考慮すべき重要な要素を提示するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GFPを用いたFRAP解析に関しては全ての実験を遂行し、重要な結果を得ることができた。ただ、新たに立ち上げた植物栽培室でアグロバクテリウムの感染によるシロイヌナズナ形質転換体を作出しようとしたところ、植物の生育不良が続き、形質転換体の取得に大幅な遅れがみられた。その結果、FRAP解析と補完的な位置づけにある、光変換型蛍光タンパク質Dendra2などを用いた定量イメージング解析に着手することができなかった。各形質転換系統を作出するためのベクターは全て構築できているので、現在、それらをシロイヌナズナに順次導入し、解析のための系統確立を進めている。なお、これら光変換型蛍光タンパク質を使った実験でも、画像定量解析のプラットフォームはFRAP実験の場合に用いたものを活用できるので、系統確立および定量イメージング実験を行うことができれば、結果の解釈は円滑/迅速に進めることが可能である。 また、FRAP解析で得られた実験結果をもとに、実際に生体内で機能しているシグナル因子の特徴的な発現プロファイル形成が説明できるのか否かの検討も進めている。具体的には、研究代表者が同定した細胞間シグナル因子ANGUSTIFOLIA3(AN3)に着目し、葉原基の先端-基部軸に沿った発現プロファイルの定量化に取り組んでいる。これまで、AN3は葉原基の基部で限定的に発現し、細胞間の移動を通じて、上記発生軸に沿った発現勾配を形成していることが分かってきた。また、細胞間を移動できないタイプのAN3を発現させた場合は、これまで理論的に提唱されてきたPower-law勾配モデルに従い、移動できるAN3がつくるより急な勾配になることも確認できている。
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今後の研究の推進方策 |
これまで明らかにしてきたタンパク質拡散動態の非一様性という現象が、生体内でどのような役割を担っているのか示すことは、本研究課題にとって重要な課題のひとつである。また、実際に生体内で機能している細胞間シグナル因子AN3の発現勾配に関する定量データは、理論モデルで解析できる精度で取得することにも成功している。この状況から、今後は、タンパク質拡散動態の非一様な場を通じて、AN3がどのようにして発現勾配を形成しているのか理解することを目指す。そのために、これまでFRAP解析で得たタンパク質の拡散に関するパラメータ情報を用いて、タンパク質の生成/分解/拡散を加味したSDDモデルを基盤とし、さらに組織の成長という要素も考えた勾配形成モデルの確立を進める。この組織の成長については、移動できないタイプのAN3をPower-law勾配モデルで解析することで、必要なパラメータはほぼ全て決定、もしくは推定することができると考えている。 上記の実測データに基づく理論的アプローチに加えて、光変換型蛍光タンパク質を用いた定量イメージング解析を、AN3の拡散動態を調べるための実験系まで拡張させる。そこで現在作成中の形質転換系統の確立を優先的に進め、なるべく早い段階でAN3の拡散性について定量化し、上記理論モデルとの比較検証を行う。そして、新しいモデルが実際のAN3の発現勾配形成メカニズムをどこまで説明できるのか見積もる。以上から、葉原基におけるタンパク質拡散動態の非一様性の定量化、および、その情報に基づくAN3の発現勾配形成メカニズムに関する論文の公刊を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に新たな植物栽培室を立ち上げたところ、環境の変化により植物の生育不良がみられた。その結果、計画していた形質転換体の確立に遅れが出た。これにより、光変換型蛍光タンパク質を使った実験を行うことができなかったため、次年度使用額が発生することになった。
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次年度使用額の使用計画 |
上記理由に記載した植物の生育不良は既に改善されており、順調に形質転換系統の作出が進んでいる。そこで、平成27年度に取り組めなかった実験を平成28年度に行うことを計画している。そのために必要な植物栽培資材や分子生物学的実験に必要な試薬類を購入する計画である。
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