研究実績の概要 |
(1)シロイヌナズナの葉でみられるAN3の発現勾配形成における組織成長の影響を定量的に評価した。細胞間を移動できないタイプのAN3を遺伝子工学的に作成し、その発現分布を解析した。理論的に推測されるとおり、この発現分布はPower-law勾配モデルに一致した。そこで、この勾配モデルから、AN3タンパク質を生成する細胞数や、勾配が形成されるまでに起こる細胞分裂回数を見積もった。 (2)上記の解析から得たパラメータ値をもとに、細胞間を移動できるタイプのAN3がどのように発現勾配を形成するのか検証する理論モデルを構築した。この理論モデルにおいて、均一な細胞の大きさを仮定すると実測したAN3発現勾配を再現することはできないが、実空間でみられる細胞サイズの偏りを組み込むと、非常に高い精度でAN3の発現勾配を再現できることが分かった。 (3)構築した理論モデルのパラメータ依存性について検討した。まずは全く知見のないAN3タンパク質の分解係数について、構築した理論モデルをもとに検討したところ、タンパク質の分解については非常に感受性が高く、分解係数をほぼゼロにしないと発現勾配が形成されないことを見いだした。一方、拡散係数に対する摂動を与えた場合、数倍程度の変化であれば頑健に実測値に近い勾配形成ができると推測された。 (4)このAN3の発現勾配がどのような生理的機能を担っているのか検討した。AN3は細胞増殖活性を制御する転写コアクチベータなので、移動できないタイプのAN3を発現させて急な勾配を作らせたところ、細胞分裂活性も連動して低下した。このことから、AN3の発現勾配は拡散により分布を拡大させることで、細胞増殖活性の時空間分布を規定しているというアイデアを提唱した。 (5)以上の結果を原著論文としてまとめて、現在は国際誌に投稿中である(Kawade et al., submitted)。
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