研究課題/領域番号 |
15K18550
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
木下 奈都子 筑波大学, 生命環境系, 助教 (80716879)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 長鎖非コードRNA / 環境ストレス応答 / 可視化技術 |
研究実績の概要 |
干害・高塩濃度などの環境ストレス状況下においては、植物は外界ストレスを感知してストレス応答シグナル伝達経路を活性化し、下流のストレス応答・耐性遺伝子の発現が制御される。結果として植物は、形態変化・発生時期の変動などを伴う発生プログラムを柔軟に制御することによりストレス耐性を獲得して生存している。 発芽は、乾燥種子から独立栄養個体へと変化する発生のプロセスである。これは同時に、種子における乾燥耐性から、栄養成長個体へと移行するプロセスである。このため、発芽時は、植物が最も環境ストレスに弱い発生段階の一つである。発芽期に環境ストレスに遭遇すると、実生は一旦発芽プログラムを停止する。この状態で乾燥種子に備わっている乾燥耐性機構を再活性化し、高親水性タンパク質などの乾燥耐性因子を高発現し、乾燥ストレスに対して耐性を獲得する。一方で近年、主に哺乳類の研究から、長鎖非コードRNAがゲノムでの物理的な位置に非特異的に作用し、「グローバルに」遺伝子発現を制御していることが明らかになった。本研究では、高塩濃度ストレスに応答して発現誘導される長鎖非コードRNA、NPC60に着目した。 このRNAが高浸透圧ストレスや、環境ストレス下で重要な役割を担う植物ホルモンであるアブシジン酸にも応答して発現が活性化することを見出した。細胞内局在性を解析する上で、細胞内で生きたままRNAの局在性を解析する手法は、細胞質におけるRNAに限定されていた。このため本研究では、核内に局在するRNAを生きた細胞内で可視化する技術を新たに開発した。この技術では、タバコの一過性発現系を利用することが可能であるため、ハイスループットな解析にも利用できる手法を開発した。この手法を用いて本RNAが核に局在することを示した。得られた結果を論文として発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
哺乳類のゲノム解析によると、ゲノム中でタンパク質をコードしている部分はわずか1.5%にしか過ぎないのに関わらず、ゲノム上の70%が転写されている。この事実は転写産物の大部分が長鎖非コード RNAによって占められていることを示している。実際、動物細胞を用いた網羅的解析からは、大部分の長鎖非コード はトランスに作用して転写を制御していることが示されている。しかし、殆どの長鎖非コードに関しては個体レベルで明らかな表現型がないため、作用メカニズムに迫る研究が難しい状況にあるというのが現状である。本研究では、発芽時の環境ストレス応答に関してNPC60 RNAがどのように機能しているのか、環境ストレス応答において中心的な役割を担うアブシジン酸や、高塩濃度条件下などにおける詳細な表現型解析を行なっている。表現型解析には、シロイヌナズナの遺伝子破壊形質転換系統と恒常的過剰発現系統を用いた。この解析から、発芽時の環境ストレス応答メカニズムにおいて、個体レベルで表現型を示すことができた。環境ストレス応答で機能する転写因子に関しても、表現型と合致する発現パターンを示していた。しかし、直接的な相互作用は検知できなかった。組織特異的な発現パターンに関しては、本非コード長鎖RNAに関するプロモーター制御下で発現させたGUS酵素の活性を解析した。その結果、発芽直後に根で高発現していることがわかった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、この長鎖非コードRNAが広範囲に及ぼす影響を解析する。 アブシジン酸は、環境ストレスに加えて、生物ストレスでも機能することがわかってきた。そこで、この長鎖非コードRNAは生物ストレスでも機能しているのか、病気や害虫に対する応答を解析する。遺伝子破壊・恒常的過剰発現などのシロイヌナズナ形質転換体を用いて、これらの系統が生物ストレスへどのように応答しているのか、解析を行う。下流遺伝子の発現を網羅的に解析し、特に候補に鍵因子が得られた場合は、相互作用機構を生化学的に解析する。 複数のストレスまたは経路にまたがって機能していることがわかった場合、同一の長鎖非コード因子がどのようにシグナルの特異性を保持しているのか、解析を進める。作用機構の分子メカニズムを生化学的に解析する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
論文執筆のため、国際会議への参加が叶わなかった。次年度は、国際会議か共同研究者との打ち合わせなど、本プロジェクトのまとめとプロジェクトの進展に向けた活動を行う。論文投稿や掲載のための経費としても利用する。
|