研究課題/領域番号 |
15K18553
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
岡本 暁 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (10582421)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ペプチド / 道管液 / 長距離シグナル伝達 / シンク-ソース / 環境応答 / 光合成 |
研究実績の概要 |
PEX1の機能を解明するための予備実験として、16時間明期/8時間暗期の光周期環境下でダイズに毛状根形質転換を行い、PEX1を根で過剰発現させた。暗期の終わりにそれらの個体から本葉を採取してルゴール染色を行なったところ、過剰発現させた個体からサンプリングした本葉では6個体中3個体においてデンプンの蓄積が観察されなかった。一方、コントロール(空ベクターを導入)では6個体中全ての個体においてデンプンの蓄積が観察された。このことから炭素源が欠乏するような条件で誘導されるPEX1は本葉に蓄積されるデンプンの代謝や輸送に何らかの影響を及ぼす可能性が考えられた。次に、シロイヌナズナにおけるPEX1ホモログ(AtPEX1)の機能解析を行うことにした。シロイヌナズナでは本葉に蓄積されたデンプンが明確に検出できなかったため、デンプンの蓄積をルゴール染色により明確に検出するための条件を検討した。その結果、バーミキュライトでシロイヌナズナを育てることにより、本葉のデンプンの蓄積が明確に検出できるようになった。この条件下でシロイヌナズナPEX1ホモログ遺伝子の発現を解析したところ、AtPEX1aとAtPEX1bがダイズPEX1と同じように暗処理で発現量が上昇し、スクロースの添加によりその上昇が抑えられることがわかった。次に長日条件(16時間明期/8時間暗期)と短日条件(10時間明期/14時間暗期)においてAtPEX1a, AtPEX1bの発現量の経時変化を調べたところ、短日条件下においてAtPEX1a,bともに暗期の終わりに発現量が上昇する傾向にあった。このことからAtPEX1a, bは短日条件で機能を発揮している可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2015年4月および2016年4月に研究代表者は異動した。そのため異動前の準備、異動後の研究機器のセットアップ、遺伝子組み換え実験の実施に伴う手続き、実験サンプルの移送、実験条件の検討などに時間がかかり、研究に遅れが生じた。 ダイズの本葉ではデンプンの蓄積を容易にルゴール染色により検出できたのに対し、シロイヌナズナでは当初の予想とは異なり、本研究の開始当初の生育条件ではルゴール染色によって明確にデンプンの蓄積を検出することができなかった。そのため、シロイヌナズナの生育条件やルゴール染色の方法を検討する必要が生じた。最終的にシロイヌナズナの本葉でもデンプンの蓄積を明確に検出できるようになったものの、結果的に実験条件の検討に時間を費やすことで遅れが生じた。 一方で、ダイズの毛状根形質転換法を用いたPEX1過剰発現系統の表現型解析からはPEX1は本葉に蓄積されるデンプンの代謝や輸送に何らかの影響を及ぼす可能性が示唆されており、PEX1の機能に関する知見を得ることができた。また、AtPEX1a, bの経時的発現解析ではシロイヌナズナを短日条件で育てた場合、暗期の終わりに発現量が上昇することがわかり、AtPEX1a, bはともに短日条件で機能する可能性を見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
ダイズ毛状根形質転換法を用いた予備的な実験ではPEX1はデンプンの代謝や輸送に関する機能を持つことが示唆された。そこで、PEX1の機能をより詳細に調べるためにシロイヌナズナを用いて解析を行う。AtPEX1a, bは過剰発現させると地上部の成長を抑制してしまう可能性が考えられるため、Gain-of-functionによる表現型を解析する際には、AtPEX1a, bを維管束で強発現させたり誘導プロモーターを用いて行う。また、PEX1の機能を明らかにするにはgain-of-functionによる表現型の解析に加えてloss-of-functionの表現型の解析も必要である。AtPEX1a, bのノックアウト系統は既に他の研究グループにおいてCRISPR-Cas9を用いて作成されている。研究代表者はそのグループよりノックアウト系統の提供を受けることになっており、それらを用いてAtPEX1a, bの表現型解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者は前年度(2015年度)に人工気象器を購入したが、その価格は約95万円であり、当初計上していた物品費の予算の半分以上を消費した。そこで研究の遂行に支障を生じないようにするために研究代表者は2015年12月に30万円を前倒し請求した。しかし、2016年1月に研究代表者は2016年度より理化学研究所(神奈川県横浜市)から名古屋大学(愛知県名古屋市)へ異動することが決まったため、前倒し請求した30万円は使われること無くそのまま残った。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度から残った予算は当初の計画通り物品費などに使用することで研究を遂行する。
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