研究課題/領域番号 |
15K18553
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岡本 暁 名古屋大学, 生命農学研究科, 研究員 (10582421)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 分泌型ペプチド / 長距離シグナル伝達 / 器官間シグナル伝達 / シンク‐ソース |
研究実績の概要 |
2016年度はAtPEX1過剰発現系統およびエストロゲン誘導性AtPEX1系統を作成し、T3世代の種子を獲得することができた。さらにそれぞれの形質転換系統についてAtPEX1の発現量を調べたところ、いずれの系統においてもAtPEX1の発現量(またはエストロゲンで誘導した際の発現量)が1000倍以上に上昇した系統を見出すことができた。また、葉のデンプン含量を測定する方法としてこれまではヨウ素デンプン反応を用いてきたが、この手法は簡便である一方で定量性に欠けており、シロイヌナズナでは明瞭な染色反応を観察することが難しかった。そこで定量的にデンプン含量を測定するためにグルコースオキシダーゼ法を導入した。この手法を用いて、AtPEX1過剰発現体の地上部のデンプン含量を測定したところ、コントロールと比べてデンプン含量が低くなる傾向が見られることがあったものの、有意差は見られなかった。その一方で、AtPEX1過剰発現体では花成の遅延が見られた。この表現型はデンプンが蓄積できなくなる変異体にも見られる表現型である。デンプンの蓄積量は培地に添加する窒素源の量にも影響されるため、添加する窒素源の濃度も検討したが、コントロールとの差異については大きな変化は見られなかった。一方、AtPEX1ノックアウト変異体を入手し地上部のデンプン含量を測定したが、野生型と変わらなかった。AtPEX1には複数のホモログが存在することから、これらが重複して機能している可能性がある。そこで現在AtPEX1とそのホモログの多重変異体を作製している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、シロイヌナズナの葉に蓄積されたデンプンの検出には操作が簡便なヨウ素デンプン反応を用いることを計画していたが、栄養や光条件などの検討を繰り返してもシロイヌナズナでは葉におけるデンプンの染色度合いが安定しなかった。そのため、より厳密なデンプンの定量法であるグルコースオキシダーゼ法を導入することを計画し、その実験手法に習熟したり植物の処理条件を検討したりする必要が生じた。また、AtPEX1過剰発現体を作成したが、野生型と比べて有意な表現型が見られなかった。その原因として形質転換体の訓化や補償が考えられたため、エストロゲン誘導性プロモーターを用いたAtPEX1誘導系統を作成した。これらの研究計画の変更により遅延が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
現在の状況を打開するために二通りの推進方策を検討している。一つ目はシロイヌナズナを用いて、AtPEX1過剰発現系統またはエストロゲン誘導性AtPEX1系統において野生型と比べて有意な表現型が現れるような条件を探索する。具体的には光の強度やCO2濃度などを検討し、植物体がよりデンプンを蓄積しやすい環境下でAtPEX1の効果を解析する。また、現在作成中のAtPEX1とそのホモログの多重変異体系統を用いて表現型解析を行う。 二つ目の方針として、既にPEX1の過剰発現による表現型を確認できているダイズを用いた解析を行うことを計画している。ダイズを用いた場合、シロイヌナズナのような詳細な解析は行うことは難しいが、葉から失われた炭素源の移行先について解析を行ったり、炭素源の代謝に関連する詳細な発現解析などを行ったりすることでPEX1の機能の解明につながる知見を得ることができると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に用いる実験手法を新たに導入したり、形質転換系統を作成し直す必要性が生じたりしたため、研究計画の遂行に遅れが生じた。その結果として2016年度の実支出額は当初予定していた支出額より下回ることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
当該の研究予算について、遺伝子の発現解析や形質転換体の表現型解析をおこなうための実験試薬・器具を購入するための費用、本研究成果を発表するための学会への参加費用、本研究成果を論文としてまとめるための校閲や投稿の費用として使用する計画である。
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