全ての細胞に独立して存在していると考えられている高等植物の概日時計機構は細胞自律性が高いことが近年報告されている。しかしながら、植物のすべての組織(細胞)は一様な光刺激(強さ、長さ、波長)を受容できるわけではない。このような状況下においても、植物の時計機構は各細胞が同期した時刻情報を維持し、個体として統率された生理反応を引き起こしている。 本年度は、申請者らが作成に成功したコウキクサ(Lemna minor)の概日発光レポーターを保持する形質転換植物体を用いて解析を行った。タイムラプス発光撮影で得られた、生物発光の経時変化画像を解析するための画像処理ツールは、昨年度まではImageJのマクロをベースにしたものであったが、今年度はPythonベースで実装することにより、より汎用性の高い解析を可能とした。また、画像取得の装置の改良により、植物の概日時計に影響のない緑色安全光の光量(強さ)、照射時間等を最適化した。これを用いることで、植物体の増殖や、ウキクサ輪郭抽出を行うための画像取得を暗所下においても可能にし、コウキクサの発光を個体別(フロンド別)に分けて定量できるようになった。その結果、親フロンドの時計位相に対して新規に成長してきた、娘フロンド、孫フロンドの時刻位相のズレを検出することができた。親フロンドへの局所光照射による娘フロンドへの影響を見ることで、今後同調シグナルの解析へ展開できると考える。 コウキクサにおける時計遺伝子ホモログの過剰発現体の作成では、十分な過剰発現個体が得られなかったため、コウキクサに於ける強力な遺伝子発現プロモータ野探索も行った。ゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9を用いた変異導入では新たにCas9 D10Aニッカーゼを用いることで特異性を高めた欠損変異体植物の作成を進めた。
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